Ginga

阿賀に生きるのGingaのレビュー・感想・評価

阿賀に生きる(1992年製作の映画)
2.3
流れるような構成が魅力的といえば魅力的。ただ、意識しすぎて話の展開スピードの強弱によって可能になる表現が逆に失われてしまっているのは残念。
このドキュメンタリーが一番力を入れているのは船大工の視線を捉える部分だったと思うが、視線にこそ全てが宿る、言葉でその人が表そうとするものよりも表れないものを撮ろう、そこに価値がある、みたいな思考は個人的には好きではない。言葉にして表現したことにはその人の発想、そしてそれを自分の中で言葉としてデザインしていく中での過程みたいなのが含まれているわけで言葉はその人の本心か分からないから切り捨てる、というのは全くもって正しくない。むしろそこから何を感じるのかを徹底的に分析すべき。それを分析することは自分自身が相手のことをどう考えているのかを顧みることにも繋がる。
鈎流し漁と船作りの二項対立は非常に興味深い。あの映し方だと、いやがおうにも船作りは仕事で、鈎流しは遊び、そういうふうに受け取れてしまう。真剣度も最後の結論も違いすぎて、ちょっと鈎流しの爺さんが可哀想。
季節の変化を表すシーンとして色んな風景シーンを入れ込むのは良かった。鳥が飛び立つことで冬の訪れを表し、ひとつの年が終わり、新たな年が来ることが分かる。
映画どうこうの話じゃない部分でいうと、昭和電工はその栄華の中で多くの伝統に取って代わり、水俣病という最悪の形で土地を去っていった。短い期間の中で形作られた新たな伝統に昭和電工が去ったあとの土地を支え切るほどの力はなく、土地は人を巻き込んで衰退する。でもその記憶は人々の中に残るから昭和電工への信仰は壊されずに残り続ける。昭和電工を否定することは自らの人生を否定することと同意だから。
こういう壊して新たな未熟者だけ残して、あとはご自分たちでどうぞ、っていうのはドキュメンタリー映画と似てるな、と感じた。その人たちのコミュニティにまで入り込んで、長い時間を共に過ごし、その人たちの色んな思いを聞いて、その人たち自身にも変化が起こっていっているのに、撮りたい映像は撮れたのでもう大丈夫です、っていって土地を去っていく。中々卑怯だな、と思う。
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