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ジャズ大名のろくのレビュー・感想・評価

ジャズ大名(1986年製作の映画)
4.0
天上天下筒井独尊②

筒井作品は大きく二つの分かれるの。善悪の彼岸なんかないとにかくなんだこれはってのが一つ(「虚構船団」や「虚人たち」、初期なら「東海道戦争」「村井長庵」なんかもそうね)。でもう一つはとにかく素敵な素晴らしい話、「美藝公」や「隣のグランパ」「旅のラゴス」あるいは「時をかける少女」、七瀬三部作の最後「エディプスの恋人」なんかもそれね。でこの「ジャズ大名」はそのまま後者なんだ。

それが今作品ではうまく岡本喜八とマリアージュしたと思っている。もともと岡本作品は「人間として正しく生きよう」が全面になるんだよ。そしてそこには徹底的な「反戦」があるんだ。この作品でもそれは強く出ている。そうだ、戦争なんかしないでジャズすれば歌えば踊ればいいじゃないか。もっと人生は楽しいことがたくさんあるんだ。そんな岡本の(ある意味では脳天気な)声が聞こえてくる。でもその声は嫌いじゃないよ。

とにかくジャム・セッションのシーンが楽しい。メインのコルネット、トロンボーン、クラリネット、ドラム以外に和太鼓や琴、琵琶や三味線などこれでもかこれでもかでセッションが繰り広げられる(そろばんまでトニー谷さながらに入っているの)。これの後なのかなぁ、仙波清彦とはにわオールスターズの流れですよ(大好き!)。

戦争やっているのは次々と死んでいくけどジャム・セッションやっている奴はひたすら楽しい。徹底した反戦映画。ああ岡本映画だなぁと感じて観ていた。最後にミッキー・カーチスがギターを弾き、山下洋輔が小さいピアノをモウレツに弾き、タモリはチャルメラの笛で参戦する。もうここらへんでいひひひひひである。最後にはジャズすんべ(©スウィングガールズ)でニヤニヤニヤニヤします。僕は好き!

※なぜ古谷一行が吹いているのはサックスでなくクラリネットなんだろう。という疑問には「そもそも筒井がクラリネット吹きだから」というぼくなりの推測を出しておく。筒井のクラリネットは一度断筆祭りで聞いたことがある。上手でしたよ。

※そもそもジャズはメインの音階がどんどん崩れていくとこに楽しみがある。次々と即興が生まれメインの音階を維持しながらも変換していく。この映画でもそれは十二分に楽しむことが出来た。その「崩れ」もこの映画を見たら楽しく見てほしい。
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