人類ほかほか計画

モルグ街の殺人の人類ほかほか計画のレビュー・感想・評価

モルグ街の殺人(1932年製作の映画)
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名作やないかい。
『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタイン』に続くユニバーサルホラー第三弾的作品にしては恐ろしく知名度が低いけど普通に名作やないかい。興行的にも批評的にも失敗してるっぽいけども……。
『魔人ドラキュラ』(と後の『ミイラ再生』)と同じくオープニング曲が「白鳥の湖」で『魔人ドラキュラ』姉妹編かルゴシ第二弾か的な感じも出してる。

ポーの原作を大幅に改変してて推理要素が完全に排除されムードだけを残した怪奇映画になり、デュパンは全然名探偵じゃなくなってるんだけど、映画としては正解だし、世界初の推理小説の最初の映画化なのに推理要素をあまりに大胆に捨てることによって「推理小説は映画に向いてない」という答えをさらっと出してるのがすごい。「映画はこっちのほうがええんじゃ」みたいな。

原作から推理要素を捨ててどう改変してるかというと『カリガリ博士』そのまんまで、眠り男チェザーレをゴリラに当てはめて、見世物小屋の怪しいゴリラ使いおじさんで異端者ダーウィニスト(『種の起原』発表よりちょっと前の時代設定なので完全に冒涜者扱い)のミラクル博士(ルゴシ)の犯罪怪奇譚。最高じゃあないっすか……(ただし『カリガリ博士』と違い夢とか妄想とか入れ子構造的な要素はない)。

美女をさらい群衆に見上げられながら夜の屋根を逃走するゴリラにモンスターのせつなみもちゃんとあって趣き深く、これぞ怪奇映画だ!って感じ(『キングコング』の前年なのもすごい)。

都市改造前の19世紀半ばの汚いパリの街をゴシックムード満点の美術と照明で作り上げてて最高だし。同時期にルネクレールが描いたパリと対照的なダークサイドのパリ。

カメラワークや編集のテクニックも前2作を全然上回ってるし、市川崑『犬神家の一族』みたいなリアクション顔高速モンタージュを2回もやってる。

数年後にジャンルノワールが『ピクニック』でやるブランコのショットと同じ、というかもっとカチッとカメラが固定されてて(ブランコのロープ部分が鉄製みたいになってる)特殊撮影的な素晴らしすぎる陶酔的ショットがあるのも驚愕。撮影やっぱりカールフロイント、天才。