モリアーチー

モルグ街の殺人のモリアーチーのレビュー・感想・評価

モルグ街の殺人(1932年製作の映画)
3.5
『モルグ街の殺人』は前年に『魔人ドラキュラ』と『フランケンシュタイン』を大ヒットさせたユニバーサル が、ホラー映画路線を踏襲すべく1932年に製作し日本でも劇場公開された作品です。

原作はエドガー・アラン・ポーのミステリ小説ですが、映画は倒叙になっており犯人は最初から見せ物小屋のミラクル博士と大猿エリックだとわかっています。

ユニバーサルホラーらしく『白鳥の湖』で始まります。パリの一角で見せ物小屋が興行しています。エキゾチックないダンスやアメリカ先住民も出し物にしています。その中で類人猿を売り物にしているのがベラ・ルゴシ演じるミラクル博士です。ドラキュラと同じく巻き舌でミラクルと発音してますから楽屋落ちですね。

類人猿エリックはゴリラと呼ばれているのにどう見ても明るい色の毛の長いオランウータンの着ぐるみで、なぜかアップになると黒い毛の短いチンパンジーの実物接写です。もう類人猿オールスターです。

ミラクル博士は実は研究者です。研究費稼ぎのためにこんな見せ物やってるんだと客の前で吐露してますが、人類と類人猿は近い種で交配可能と信じ込んでいてそれを公言している危ない人物です。まだ19世紀前半で進化論なんて知られていません。カトリックの国フランスでは神への冒涜と思われてしまいます。

ミラクル博士の見せ物を医学生のピエールが恋人のカミーユと見に来ています。一応原作にリスペクトしてピエールの姓はデュパンになってます。猿人エリックはいたくカミーユの帽子が気に入ったようです。そして、ミラクル博士はカミーユ自身を気に入ったようです。ここから悲劇の幕が上がるのですが、60分余りの映画なのにかなり見どころが多いです。

まず、オスマン男爵の大改造前が舞台ですから、陰鬱で暗く人の命も極めて安い、そんな時代のパリのセットが素晴らしいです。そして、逆にピエール達学生が陽光燦々の下で繰り広げるピクニックのシーンも特筆すべきものがあります。カミーユを乗せたブランコの主観カットなど歴史に残ります。そして、ラストの大捕物です。このシーンは翌年に公開されたRKOの『キングコング』に確実に影響を与えたと思います。素晴らしいです。手に汗握ります。

監督は『フランケンシュタイン』の脚本を手がけたフランス出身のロバート・フローリー、撮影はドイツで『巨人ゴーレム』や『メトロポリス』を担当し後に『ミイラ再生』を監督するカール・フロイントです。ヨーロッパマインドを持つ映画人が新天地アメリカで頑張りました。
モリアーチー

モリアーチー