春とヒコーキ土岡哲朗

ノートルダムの鐘の春とヒコーキ土岡哲朗のレビュー・感想・評価

ノートルダムの鐘(1996年製作の映画)
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差別感情はこの世からなくなるのか。

こんなにも暗いディズニー映画があるとは。外見が醜く、大衆から不気味がられるカジモドが主人公。主な登場人物は、カジモドのほか、差別主義者のフロロー判事と、人種差別されるヒロイン・エスメラルダと、大衆。

簡単に言えるポジティブな感想としては、差別する人間こそ醜悪に見えるし、まっすぐに生きようとする人間は健全に見える。しかし、それはフロロー対カジモドに視野を限ったらの話。
差別とは、強く思想を持った差別主義者だけがするのでなく、それに煽動された大衆がするもの。お祭りでカジモドの容姿にネガティブな反応をした大衆が、司会者の誘導ですぐにはしゃいでカジモドを受け入れたのも、大衆の意思のなさを物語っている。カジモドが受け入れられて大衆が盛り上がるシーンは美しかったが、その美しさの背景がそんなことでしかないのは、大衆へのむなしさを感じてしまった。

フロローに従う家来たちも、一人ひとりがどれほど自分の意思で差別を始めたのか。たいした理由もないだろう。自分たちと違うものを敵視して怒ることで安心する習性が人間にはある。注意し続けないと、差別はすぐ生まれる。正直に言って、醜いと思ったものを恐れて遠ざけたがるのは人間の本能に近いのかもしれない。差別感情を根絶やしにすることはできない。生まれかけた差別を注意深く消していくしかない。