Kamiyo

瀬戸内少年野球団のKamiyoのレビュー・感想・評価

瀬戸内少年野球団(1984年製作の映画)
4.0
1984年 ”瀬戸内少年野球団”
監督は「少年時代」の篠田監督、カメラは「羅生門」「雨月物語」の名カメラマン宮川一夫さんで、映像はとても美しく、夏目雅子さんも最高にきれいに撮れています。
脚本は大島渚監督とのコンビが多かった田村孟、
原作者は阿久悠
もの凄く強力な布陣で製作されたことが分かります

英語題名の"MacArthur's Children"の方が内容を的確に表現されています。『和訳”マッカーサーの子供たち”』
しかし、それではどんな内容なのか?とイメージしづらいので、この瀬戸内少年野球団という題名なのだと思います

原作が作詞家阿久悠氏の同名の自伝的小説、昭和の一時代を画した気鋭のクリエイターの歌謡曲の作詞家で、また放送作家、詩人、小説家で、1970.80年代は僕の青春時代で、彼のGS、アイドルその他の作詞で、大ヒット曲や名だたる歌謡賞の大賞に輝くのは殆ど彼の作品ばかりだった。
「異端」の作詞家としてスタートを切った阿久悠。その詞は、歌謡曲のタブーを破りながら変遷を重ね、やがて多くの人々の心を打つようになる。
【制服を強いるような社会や体制に対して、自由を訴えて抵抗するのが、グループサウンズである】

僕の好きな不朽の名曲『あの鐘を鳴らすのはあなた』
(和田アキ子)
「あなたに逢えてよかった あなたには希望の匂いがする つまずいて 傷ついて 泣き叫んでも さわやかな希望の匂いがする」(『あの鐘を鳴らすのはあなた』)

その他にも、また逢う日まで、ざんげの値打ちもない、ジョニィへの伝言、北の宿から、勝手にしやがれ、UFO、雨の慕情、思いつくまま書きました

少年野球がテーマの映画ではありません
敗戦国日本の再出発点を見つめ、現代に続く原点とは何であったかを再確認することがテーマであったと思います
その過程で、民主教育と男女共学のはじまり、男女同権など今に続く戦後日本の成り立ちが説明されるのです

冒頭は昭和天皇の終戦詔勅のラジオ放送を小学生達が校庭に整列して聴いているところから始まります
舞台は淡路島の西海岸の真ん中の辺りの漁港の街のようです
物語はそこから2年後くらいの小学生達と戦争未亡人となった若い女性教師駒子先生(夏目雅子)の日々のお話です
軍事教育から民主主義教育に変わり戸惑っている子供たちに強い心と優しさを持って接していく。
しかし、駒子先生も戦争で夫を失うなど周囲の大人たちも戦争の影にひきずられ時代の流れに翻弄されていく。

戦後の混乱期といっても都会での荒廃による貧困や食糧不足などとは全く無縁のような美しい風景と海の幸に恵まれている小村はまるで戦争とは無縁の別世界のようにも映る。戦地から帰国してくる者や上陸してくる進駐軍の存在などではじめて戦争が意識されるような場所。生徒たちが教科書を墨で塗りたくるシーンに新時代の到来を象徴させている。
これといった事件もありません

そこに戦争時は元提督海軍少将波多野(伊丹十三)が、小学生の娘波多野武女(佐倉しおり) を連れて戦犯として手配されるまで穏やかに骨を休めようと島の漁師に戻った部下を頼ってやって来ます
新学期が始まって、転校生がやってきた。海軍提督だった父に同行して島にやってきた波多野武女だ。彼女のきりりとした美しさに胸ときめいた少年たちは、武女と提督を進駐軍の手から守ってやることを誓い合った。
そうこうするうちに進駐軍の十名程度の兵隊達も島の砲台を爆破処理するためにやって来ます
出来事はそんなぐらいです

そんな時代の中で駒子先生が子供たちに言い出したのが「みんなで野球をやりましょう!」
駒子先生の戦死した筈の夫は甲子園出場の高校球児でした
グローブもボールも無い状態から始めた野球だけど、道具を自分たちで作ったり、みんなで働いて道具を揃えたり、次第に野球を通して何かを感じていく。
それらの出来事が絡みあって、クライマックスの進駐軍GIチーム対少年野球団の試合になるのです
戦勝国と敗戦国の試合で子供たちは武女の父親は巣鴨プリズンに送還されその後シンガポールで処刑されたため武女の父の仇を討つのだと試合に臨むのです

駒子先生はある日、子供たちに教えます
占領されたからといって心まで占領されたのではない
卑屈になったり、逆に媚びたりしてはならない

それはもちろん前夜、無理矢理肉体を義弟(渡辺謙)に力づくで抱かれたことに対する腹立ちから来た言葉です
駒子が翌日学校で子供たちにこのように諭す。

淡路島の西海岸は瀬戸内に面しています
水平線の向こうには「二十四の瞳」の小豆島が浮かんでいます。瀬戸内の女先生と生徒たちという設定はどうしても「二十四の瞳」のそれを思い起こさせるけどあの映画のような湿った雰囲気はなく地中海のごとくカラッとしているところが特徴。

決して夏目雅子の美貌を愛でるだけの映画ではないのです
しかし余りにも彼女は美しく、彼女のイメージにぴったりな役柄であったことが、まるで太陽を直視したかのように他のことは全く目に入らなくなってしまうのです
夏目雅子が美しい!
それ以外のことは何もかも吹き飛んでしまうのです
しかし、ただそれだけが残る映画になってしまったのなら大変残念なことです

夏目雅子は本作の公開の2ヵ月後の1984年8月、20歳の頃からの7年間交際していた作家伊集院静と結婚をします
1985年2月、彼女は突然、急性骨髄性白血病を発症します
そして同年9月にはもう亡くなくなってしまうのです
27歳、正に美人薄命です
そのことが本作をさらに伝説の作品に押し上げているのかも知れません

淡路島の南斜面には花が色とりどりに咲き乱れています
斜面一面に自生する夏水仙の美しさは目に焼き付いています。。。。まるで夏目雅子の清楚な美しさそのままでした
夏水仙の花言葉は「悲しい思い出」だそうです
やはり夏目雅子は美しいと思うし、瀬戸内海の穏やかな風景も美しくて癒される。

最後、武女の父親は巣鴨プリズンに送還されその後シンガポールで処刑されたため、東京に住む兄(三上博史)が島に武女を迎えに来て船で港から去っていくが、島をあとにするシーンで、バラケツ(大森嘉之)が教室を飛び出し船を見送る姿、一方教室で涙する竜太(山内圭哉)と駒子先生の姿は、ちょっと目頭が熱くなる。

渡辺謙のデビュー作でもある、
未亡人である駒子の夏目雅子に恋焦がれて強引に関係を結ばせる、駒子の義弟鉄夫を演じた。

郷ひろみは夫の正夫役で、学生の頃野球選手だったが戦争で片足を失い、島に帰ってくることをためらい四国の金比羅宮の社務所で働くが、駒子が迎えに行き島に戻ってくると子どもたちに野球を教え始める。

村の床屋の主人の岩下志麻が男に何度も騙される役をやっているのだが、どう見ても彼女を捨ててまで一緒になった女達より岩下志麻の方はいい女なのにねぇ(笑)
駒子先生と武女と岩下志麻それぞれの生き方とその後をしみじみ感じてしまいました。
大滝秀治、島田紳介、堤真一も出演してたりする

作中流れるテーマソングは阿久悠氏がグレン・ミラーの楽曲「イン・ザ・ムード」に大阪弁の歌詞をつけたもので、敗戦の暗い空気を吹き飛ばす元気な明るさに満ちた軽快な音楽であった。
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