ずどこんちょ

ヒートのずどこんちょのレビュー・感想・評価

ヒート(1995年製作の映画)
3.4
アル・パチーノとロバート・デ・ニーロという名俳優同士の共演。これだけで見応え十分です。
しかも、二人は敵対する立場にいます。LA市警の敏腕刑事ヴィンセントを演じるアル・パチーノと、緻密に計算された作戦を立てて犯罪を成功に導いてきたプロの強盗団リーダーのニールを演じるロバート・デ・ニーロ。ヴィンセントはニールの事件にあたり、その卓越した捜査力でニールにジリジリと近付いていきます。
共演というよりも、「競演」です。ヤマを踏むプロと、それを阻止するプロの熾烈な戦い。

2時間50分という長尺ながら、どのように警察を欺くのか、あるいはどのように強盗団を追い詰めるのか、その攻防戦が常に繰り広げられ、緩むことのない緊迫感が続きます。
鉄屑場の前に警察が誘き出された時は確かに「やられた!」と思いましたね。盗聴と追尾を逆手に取られました。
途中、街中で繰り広げられる銀行強盗団と警察の激しい銃撃戦は一気にボルテージが上がりました。駆け付けた警官や逃げまどう無関係な市民も銃撃戦に巻き込まれており、壮絶さが伝わってきます。お互いに死に物狂いで撃ちまくります。

ヴィンセントとニールは刑事と犯罪者。しかも双方ともに腕利きという設定ですから、二人が直接対峙する場面はそう多くはありません。
しかし、お互いにその力を認め合っていて、気を抜くことなく意識し合っています。犯罪者もニールほど足を残さず警察を出し抜く力を持っていると、優秀な刑事にその実力を認められるのです。ニールは犯罪者という生き方を選んでいますが、決して血気盛んで狂気的というわけではなく紳士的で粛々と作戦を遂行していくプロですから、捜査に人生を捧げているヴィンセントからすると良きライバルと感じられるのでしょう。

ニールが本当に金属関係のセールスマンだったら、きっと相当な営業成績を叩き出す大物になっていただろうなぁとも感じます。自らの役割に真剣に没頭する力が、犯罪の方向に固まってしまったのが残念でなりません。
とは言え、ヴィンセントと対峙した時にニールが言っていたように、もはや彼にはこの道以外に生きる術はないのです。刑務所に行く気はないし、刑務所に行ったところで他の生き方を選ぶ可能性もありません。
出所して更生しようと劣悪なバイトで耐えていた黒人の彼を事件に巻き込んだのは、利己的で身勝手だと感じましたが、犯罪者というのは基本的に利益を求めて動いているだけですし、仲間同士も犯罪という絆で繋がっているだけで全ては自己選択、自己責任が原則なのでしょう。

二人がその道のプロと感じられるのは、二人とも"孤独"であることです。
ヴィンセントは捜査や仕事に時間を割きすぎて二度離婚しており、今も結婚している妻ジャスティンとの離婚危機を迎えています。何かと仕事に呼ばれ、しかも家族といる時もどこか事件のことを考えているような張り詰めた表情をしているのですから、ジャスティンも寂しさで心が離れていきます。
一方、ニールにはレストランで出会った恋人イーディがいます。プロの犯罪者として身を固めることは危険を伴う、常にいつでも直ぐに高飛びできる独り身であるべきだという信念を持つニールでしたが、次第にイーディを心の拠り所としていきます。
とはいえ、彼にはいつ警察の追っ手が迫ってきてもおかしくない。その危険は彼自身も感じているでしょうから、イーディとの時間を大切にしながらも心のどこかで彼女を切り捨てなければならない瞬間、あるいは彼女に見放される瞬間も覚悟しているのです。

二人とも、自らの生き方を貫くあまりに"孤独"な人生を送っている。その孤独感が共鳴して、二人の間に互いの実力を認め合う尊敬のような緊張感が生まれたのかもしれません。
名俳優の二人が鋭い睨みをきかせながら、深みのある演技で対決していました。