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ヒートのmasayaanのレビュー・感想・評価

ヒート(1995年製作の映画)
4.0
マイケル・マンの映画をこの代表作を含めてようやく何作か見て思うのは、まず、極めて素朴に申し上げて「導入のプロ」ということだろう。何の説明もなく、映画が始めるとそこはいきなり周到に計画された強盗犯罪の現場、その只中である。観る者の理解力を信用したように、言葉による説明は抑制され、むしろ伏線をこまめにバラまきつつ、そっと引き揚げていく。裏切り、欺き、しくじり、復讐、仁義、いつも同じ言葉を打っている気がするがそれでもやっぱり、面白い。

わざわざシークエンスをカットする数秒のために、こんなアングルから撮ったのかあ、といういい意味での不自然さを感じる転換のショットが、何の称賛も求めずに現れては消えていく。おそらく継ぎ目は多いほうの映画だと思うが、完全にコントロールされた編集によって体感的にはほぼシームレス、およそ3時間に及ぶ長大さは感じない。1曲80分のコールドなハードロックのアルバムが存在するとしたらこんな感じだろう。そしてそのハードコアな表情の裏で、いかにもアメリカ映画らしく、そんな馬鹿なというご都合主義を何度も通してみせる。

今の感覚でポリコレ的な物差しを当てるのなら、日本の福祉分野で「滑り台社会」と表現された、底なしの連鎖を視野に捉える問題意識を一応は示しており、無暗にぶっ放している訳ではないということは理解できつつも、醒めた目で見れば結局は男たちのマスターベーションであり、女性たちの扱いはミソジニーの典型だ。とは言え、それでもやっぱりね、念願の高飛びを前に「野暮用」を思い出して急ハンドルを切る男を見て、行け、やっちまえ、こっからはただのLA死闘編だ、とね。なっちゃうよね。
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