てれ

オリーブの林をぬけてのてれのレビュー・感想・評価

オリーブの林をぬけて(1994年製作の映画)
3.5
ああなるほど、後から知ったことなんですが
1「友だちのうちはどこ」
2「そして人生はつづく」
3「オリーブの林を抜けて」(本作)
で三部作となり、「ジグザグ道三部作」と言われているんですね。たまたま順番通りに観ていて良かった。

これは前作「そして人生はつづく」のワンシーンの撮影裏をドキュメンタリー風にまとめた映画。これまたどこからどこまで映画の中か分からない。この現実との境界線のなさが心地よいとさえ感じる。緑の木々や穂をさわさわと揺らす風や花の色鮮やかさがすぐそこにあるようだ。
サプライズだったのが「友だちのうちはどこ?」の子役のババク君とアハマッド君が出演していて、その成長した姿がいとおしくなった。

映画の軸は、学のない大工の青年が一人の才媛の少女に惚れているストーリーだけど完全に青年の一方通行な言い寄りで少女はフルシカトしてるので、このシチュに馴染みのない人にはけっこうキツい話かも。
でも、これには風土的な理由があると思うんだよね。と言うのも、スーフィズムの(神秘主義)の影響が強いイスラーム文学、特に抒情詩(ガザル)では、理想の女性が求愛者を冷たくあしらうという題材は王道。イランは歴史的にガザルが盛んに作られていた地域なので、こういった男女の関係は広い概念としてあるはず。自分は普段インドのイスラーム文化に興味のある身として、ウルドゥー語のガザルの和訳を読んだりしているがそれ同様の題材がほとんどに感じる。だから本作でそういう男女関係が出てきても特に驚きはしなかったけど、映像になるとけっこう生々しいなこれ…となる。
でもキアロスタミ監督が描いたのはその男女の問答じゃなくて、あくまで姿としてであって本題は別だよね。

青年の「学のない人と学のある人、家のない人と家のある人が結婚すればいい。世の中助け合うべきだ」の主張は極端だけど頷けるものがある。
そして彼のような、明日すら先行きが分からないけれど流れゆく時間の中を過ごしている人を見ていると、世の中と人生に確かなものはない、ということが確かなことのように思えてくる。

ラストシーンには、そこはかとない郷愁と悲哀と平穏が漂っていた。アッバス・キアロスタミ監督の作品、もっと観たくなりました。
てれ

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