不在

オリーブの林をぬけての不在のレビュー・感想・評価

オリーブの林をぬけて(1994年製作の映画)
3.8
映画とは一体何だろう。
サミュエル・フラーは『気狂いピエロ』の中で、「映画とは戦場であり、愛と暴力と死、つまりエモーションだ」と語る。
これに対するアンチテーゼとして、小津やキアロスタミらは素朴で小さな映画を撮り続けた。
ありふれた日常や普遍的な営みこそ映画であり、芸術であるという事。
この小さな村に映画というモノリスが現れたように、我々の人生にもその瞬間はいつでも訪れる。
それを証明する為に、キアロスタミは映画と"非"映画の壁を徹底的に破壊するのだ。

驚くべき事にこの映画には、計3人ものキアロスタミが同時に存在している。
キアロスタミ役を撮るキアロスタミ役を撮るキアロスタミという構図だ。
そして一応はドキュメンタリーの体で制作された前作『そして人生はつづく』における嘘を自ら暴いていく。
しかし全てが偽りだったとしても、前作を観て我々が抱いた感情だけは本物なのだ。

芸術とは虚構でしかない。
しかしその嘘が人々の人生に入り込み、それが芸術になってゆく。
その瞬間、嘘が真実になる。
鏡に映る虚像の自分も、結局は自分なのだ。
不在

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