主人公と同じ姿かたちの『読書する女』という本の登場人物の境界が曖昧になっているのがよかった。主人公が読めば登場人物にとってはそれは現実なのは当然だけど、いつのまにか登場人物に起こった現実が主人公のものにもなっている。そのときまさしく『読書する女』を読書する女という構図は明らかになっているのだ。でも不思議と夢幻劇のような印象は無い。
登場人物が各家庭に行く時にその家庭のテーマカラーを身につけてるのもよかった。まるで依頼主の欲望を幻想で映し出すように彼女は依頼主の色に染まる。しかし、次のシーンではすでに次の依頼主の色に染まっている。フランスの狭い路地裏を渡り歩く登場人物は、蝶さながらに移り気だった。彼女の本当の気持ちはどこにあるのか誰も知らないし、そもそも存在しないようだった。