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カーツームのshiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

カーツーム(1966年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

この映画はゴードン将軍の経歴と世界史の知識が無いと理解しにくい。ゴードンは英陸軍の工兵の出身であったが、中国駐在中に太平天国の乱の指揮官を任せられることになった。彼は大変な戦上手で、乱の鎮定に大きな功績があり、名前のチャールズを捩って「チャイニーズ・ゴードン」と呼ばれるようになった。
しかしながら、ゴードンは鎮定の最終段階で、反乱軍の人々の命をできるだけ救おうとして、中国の軍事の責任者であった李鴻章と交渉して、降伏した場合には、反乱軍の人々の命を助けるという約束を取り付け、反乱軍に降伏するよう説得した。ゴードンの説が功を奏して、反乱軍は降伏したが、降伏後に、李鴻章は反乱軍の兵士を皆殺しにしてしまった。ゴードンは大変怒り、抗議したが、結局失意の内に中国を去ることになった。
その後、ゴードンは招聘する人があって、スーダンの総督になり、現地の奴隷制の廃止に努力した。私はあまり詳しいことは知らないのであるが、カーツームの包囲戦で奴隷であった黒人の兵士はゴードンを最後まで支えたそうである。映画の中でもゴードンの従者の黒人の青年(カリール)がゴードンを最後まで支えているが、この辺りは、史実を反映させているのであろう。
グラッドストンはビクトリア朝の有名な首相で、自由党所属で外国への干渉を嫌う方であったらしい。この映画の主題であるスーダンの反乱(マフディの乱)を収拾するための英陸軍の直接的な派遣を避けようとして、その代わりに有名人で現地に詳しいゴードン(当時、英陸軍少将)をスーダンの首都であるカーツームに派遣したのである。危なくなった場合には、有名人であるゴードンを早めに撤収させるためにお目付け役としてスチュアート大佐を副官とした。
スチュアート大佐は、危険で見込のない戦場に赴こうとするゴードンの行為を売名とみており、映画の中でもゴードンに面と向かってそのことを非難し、ゴードンから激しい反発を受けている。ゴードンはエジプトの有力者と交渉して事態を有利に運ぼうとするが、奴隷制を廃止しようとする過程でその有力者の息子を処刑しており、協力は得られない。思い余ったゴードンは単身で、反乱の指導者であるマフディを訪問した。そして、スーダンの首都で自分が守備しているカーツームから住民を撤収させることを黙認してもらうよう懇願するが、マフディはカーツームを奪取して住民を殺戮することは、その後の戦争を円滑に進めるために必要なことで、神の意志でもあるとゴードンの申し出を拒否し、ゴードンに対しては、早くカーツームを去るよう勧めた。
ゴードンはカーツームに帰り、守備を固め、英陸軍の支援を要請するが、英軍の支援は中々得られない。この中で分かってくるのは、ゴードンがスーダンの総督を引き受けた理由は、決して売名ではなく、自分の良く知っているカーツームの人々を救うためであったことである。最初はゴードンに反発していたスチュアート大佐も次第にゴードンの誠意に気が付き協力を惜しまないようになる。
最終的に救援は間に合わず、ゴードンは戦死するのであるが、その過程で親しかった人々に離反されたり、裏切られたりして、苦悩するゴードンを演じているチャールトンヘストンの演技は素晴らしい。
さらにこの映画では守備隊のエジプト軍の兵士が素晴らしく、将校から兵士まで最後まで軍人らしく戦う姿は現代のエジプト人がみても納得するのではないだろうか?映画の最後で、反乱軍が総督官邸の中庭まで乱入する中、従僕のカリールが軍刀をゴードンに差し出すと、ゴードンは軍刀を受け取らず、静かに指揮棒だけを持って、中庭に降りて殺されるのであるが、カリールがその後に、ゴードンの軍刀を振りかざして反乱軍に突入するシーンは何回みても涙が出る。
この映画は反乱軍も含めて、いわゆる悪役は出てこない。マフディもその腹心のアブドラも思慮深く勇敢な人物である。この映画の主題は、歴史の流れの中でゴードンを中心とした人々の生きざまを描くことであろう。
ちなみに、救援にくる英軍の将校であるキッチナーはその後のスーダン戦役で活躍し、英国によるスーダンの植民地化に大きく貢献した人物で、第一次大戦では英国の陸相を務め、バレンツ海で戦死している。彼も英国の国民的な英雄であり、そのことを理解しているとこの映画でのキッチナーの役割りも良く理解できる。
この映画は、戦闘シーンが有名であるが、実際には戦闘シーンの時間はそれほど長くはなく、ゴードンを中心とした人々の動きが映画の中心であると思う。この映画は帝国主義時代の戦争を描いたものとして、「北京の55日」と同じような映画であると思われているところがあるが、植民地の人々も含めた人々の生きざま丁寧にを描いた点で、「北京の55日」よりはるかに良質な作品と言えよう
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