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チェンジリングの消費者のレビュー・感想・評価

チェンジリング(2008年製作の映画)
4.3
・ジャンル
ノンフィクション/ドラマ

・あらすじ
事の発端は1928年3月10日
電話交換手の主任として働く女性、クリスティンの9歳の息子であるウォルターが突如として失踪
即座に彼女は通報するが警察に24時間経つまでは人員を割けないと一蹴されてしまう
やがて捜索が開始されても行方は分からぬままだった
そして5ヶ月後、彼女の元に現れたジョーンズ警部はウォルターがイリノイ州で保護されたと報告にやって来る
待ち侘びた息子との再会に感涙するクリスティン
しかし現れたのは全くの別人だった…
彼女は再捜索を求め抗議するも警部がその主張を受け入れる事は無かった
赤の他人である少年と暮らす事を余儀なくされたクリスティン
そんな彼女を助けようとかねてからLA市警の不正や汚職を非難してきた牧師、グスタヴが共闘を申し出た事で徐々に別人の証拠が集まり主張は受け入れられるかと思われた
その期待は裏切られ、警部は彼女が少年を息子と認めない責任を問い訳が分からぬままクリスティンは精神病棟送りにされてしまう
それでも彼女は不当な扱いを耐え忍び、本物の息子を隠す事を諦めずにいた
やがて彼女の望みは牧師達の尽力とウォルターが被害者の1人と目される児童達の誘拐殺人の事件が明るみに出た事で叶う事となるのだが…

・感想
‘28年に実際に起きた入れ替え子事件をほぼ脚色無しで役名も全て実名を使い製作されたクリント・イーストウッド監督、アンジェリーナ・ジョリー主演の名作
クリスティンの失踪した息子、ウォルター達少年の加害者であるゴードン・ノースコットによる事件に関してはこちらのゆっくり解説動画で詳細に語られている
https://youtu.be/4KkN6qZvaN4?si=0dA9Negq-V0FGNl0

解説動画を視聴済みなので事件に関しては知った上で鑑賞した
それでも尚、当時のLA市警の腐敗っぷりや横暴さがあまりにも胸糞悪く怒りを覚える内容
長い時を経た現在でもアメリカに限らず警察の不正や汚職というのは多くBLM運動の契機となった理不尽な黒人市民殺害なども記憶に新しいものの悪質さではそれに遥かに勝る物でこんな事が現実にあったというのが信じられない
何より辛いのがウォルター殺害の真偽や詳細が判明せずクリスティンは実際に生涯捜索を続けたという事実
全ての裁判が望んだ結果で幕を下ろしたのがせめてもの救いではあるもののあまりにもやりきれない
グスタヴ牧師、ヤバラ刑事、ハーン弁護士、殺人幇助被害の証言をしたサンフォード少年
彼らがもしいなかったらと思うと実に恐ろしいし警察も警部は停職、本部長は解任止まりというのもモヤモヤが残る
警察は基本的に身内に甘いのは未だにそうだけど普通に逮捕案件でしょ…

作品に関してはクリスティンや誘拐及び監禁殺人の生還者である少年達の心理なども克明に描かれており演技もその生々しさを鮮やかに感じさせる素晴らしい物だった
2時間20分という尺の長さも気にならず結末を知っていても十分に惹き込まれる

ただ本作自体は紛れもない名作であり、一般市民も警察の動きに注視しなければならないと警鐘を鳴らす意義のある物ではあったけどどうしても物足りない事が一点
それはゴードン・ノースコットと彼の母、ルイーズによる残忍極まりない犯行の数々が僅かにしか描写されていなかった事
全て詰め込もうとすれば話のテーマがブレてしまうので仕方ないと言えばそうではある
ならば本作とは別に誰かがそちらの事件に焦点を当てた作品を製作して欲しいと個人的にはどうしても思う
同じ制作会社でそうしていればより事件の深い理解に繋げようという意思も感じられる

何故そう望むかというと2人の凶行もまた親子の物語として重厚になり得る題材であるから
母、ルイーズはゴードンによる誘拐後の性的虐待や強制労働等の共犯だった
しかし彼女は完全に自らそれを望んで行なったかというと恐らく違い親バカが行き過ぎて息子に支配される様に加担してしまった物とされている
これもまた1つの親子の物語として観たかった
その一点を除けば物足りない点はほぼ無いし教育として幅広く観られて欲しい作品

最後に余談なんだけど電話交換手の主任としてクリスティンが仕事にローラースケートを使っていたのは驚いた
昔の仕事風景として普通に興味深い
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