櫻イミト

別れの朝の櫻イミトのレビュー・感想・評価

別れの朝(1970年製作の映画)
4.5
仏・ヌーヴェル・ヴァーグ期の忘れられた名匠ジャン=ガブリエル・アルビコッコの代表作。究極の耽美恋愛映画。撮影は監督の父親でアニエス・ヴァルダ「コートダジュールの方へ」(1958)などを手掛けたキント・アルビコッコ。音楽フランシス・レイ。原題は「LE PETIT MATIN(早朝)」。

第二次世界大戦中のフランス。海辺の村の屋敷に住む斜陽貴族の娘ニナ(カトリーヌ・ジュールダン)は同居する従兄ジャンに思いを寄せていた。しかし村はナチス軍に占領され屋敷の大半も基地として占拠、ジャンはイギリスに疎開した親友の元へ旅立つ。ニナは傷心を唯一の友である白馬との戯れで癒していたが、やがて彼女の前に現れた馬好きの若いナチス兵カールと親しくなっていく。。。

閣下殿のおススメで鑑賞。自分好みの耽美ロマン作品で、特に映像のムードが素晴らしく非常に楽しめた。アルビコッコ監督の存在はこれまで知らず、映画史的にはヌーヴェル・ヴァーグ勢に名を連ねているようだが、本作に限ってはクロード・ルルーシュ監督の系譜と感じた(音楽がフランシス・レイなこともあり)。

橙色がかった風景の中を走って来る白馬。この美しいファス-スト・カットに続いて、人体模型から小鳥を殺める青年へのパンカット、
そして青年を後ろから抱きしめる母親・・・一連のオープニングを通して美と歪みが共存する本作の世界観が提示される。ここで既に良作なことを確信し期待値が大きく高まった。

果たして、太陽の逆光とソフトフォーカスを多用した幻想的な映像をベースに、義理の妹の結婚式で「子供たちに呪いあれ」と喚き散らす反ユダヤ主義の叔母、人形たちを拳銃で射撃する秘密の遊び、朝もやの中を全裸で乗馬し海へ向かう恋人、ナチスに射殺される同性愛の青年カップルなど、狂気と耽美のシーンが交互に挟まれていく。

主演のカトリーヌ・ジュールダンは精神不安定なヒロイン役にルックスも演技もハマっていてベスト・キャスト。そして、反ユダヤ主義を振りかざす性格異常の叔母を演じたマドレーヌ・ロバンソンが強烈。本作のスパイスであり重要なカギとなっていた。

一方、男優陣は役柄からしてダウナー系のダメ人間ばかり。ジャンとカールは美青年設定の様だがあまりピンと来なかった。また、ラストカットがあの人の1Sで良かったのかどうかは気になった。

マイ・ベスト耽美映画は「血とバラ」(1961)なのだが、本作はそれに匹敵するほど好みかもしれない。死と狂気の匂い立ち込める世界で綴られる禁断の恋物語。好事家なら必見の一本と言える。

※ジャン・ガブリエル・アルビコッコ監督は本作で謎の引退
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