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お吟さまのotomisanのレビュー・感想・評価

お吟さま(1978年製作の映画)
3.8
 奇妙なのは「お吟さま」というタイトルで、誰の口から出るものだろう?原作通りならお吟の端女を語り手とすることから自然であるがこちらはどうか。
 一見、原作からひと手間省いて、お吟の一人称にでもするかと思えたが、そうではない。
 この吟、なにせ劇的人物の印象さかんな松永弾正の娘との設定であり、多年を隔てて許婚とした高山右近への恋愛を大炎上させると云うのに何とも淡々とした運びで気が抜けてしまった。これでは折角三船太閤を敵役に据えて、激女お吟の向こうを張らせる意味が薄れてしまったではないか。
 そもそも、中野良子の一見恬淡とした雰囲気が恋愛一筋を隠す村正の鞘のような装いで、いづれはその淑やかさ、それがすなわち剣呑を予兆させるところとなる楽しみを想像したものだがすべて水泡に帰した。
 しかし、最期、邪恋の徒、太閤の囲みに囚われ、その夜の内に屋敷内にて自害する曲々しさは不吉な村正そのもの、激女の面目躍如であった。そして、自害した懐剣を引き抜く母女の真迫の呪詛こそ、また松永の娘、激女の死こそ太閤の命を握り潰す力となるのを明示するところであった。
 その一場のあればこそ、だからこそ、松永の血を刃〔やいば〕に利休の薫陶を鞘とした妖女、激女の裂帛の人生として彩りきれない事を謎とせねばならない。
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