Genichiro

天然コケッコーのGenichiroのレビュー・感想・評価

天然コケッコー(2007年製作の映画)
4.5
加古川から神戸に引っ越した時のことを思い出す。この映画の舞台ほどではないが家の周りは田んぼに囲まれてるような場所だったし、何かを他人と競ったり、嫌味を言うような人なんかいなかったので神戸に引っ越してきたときはびっくりした。なんせ自分で家建ててるおっさんとかいるのに誰もそのことを不思議に思わなかった。今思ったら法律上ええんかよって思う(そこの子がボンバーマンのソフト持ってたので遊びに行った)。神戸に引っ越したときのショックはいまだに引きずっているような気がする。その逆に、今作のように都市から人がやってきて田舎のコミュニティの閉鎖性が炙り出されるということもあるだろう。佐藤浩市の浮気も岡田将生の全く擁護できないモラハラ彼氏っぷりも何も解決せずに終わる。一見穏やかで優しい日々しか描かれないように見えるが、夏帆の眼差しは冷徹なカメラのようにただそれらを見つめるだけだ。今作は山下敦弘監督とレイハラカミの共作のようなものとして見た。登場人物たちが耳をそば立てた瞬間、レイハラカミの音楽が流れる。あの優しいが、強烈な記名性のある音でないとこの演出は成立しなかった。山下敦弘監督の何かを捉えようと待っているような撮影&画作りは今作の主題と見事に合致している。登場人物が誰か/何かを待っている場面が多く出てくるが、しかしそこから劇的な展開があるわけではない。そのような時間こそ彼ら/彼女らが過ごしたかけがえのない時間なのだろう。「そのうち奇跡みたいにして思い出すようになるんじゃろうか」。夏帆の震えるような美しいモノローグ、そしてラストの映画的飛躍に崩れ落ちそうになる。今作から夏帆の女優キャリアは花開いていった。そういう意味でも、山下敦弘監督ええ仕事しましたね。
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