レインウォッチャー

天然コケッコーのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

天然コケッコー(2007年製作の映画)
3.5
頬杖をついてめくるアルバムのような懐かしさと面映ゆさ。

少年漫画におけるコマやページの繋がりが《→》なら、少女漫画は《〜》。ってイメージがなんとなくあるのだけれど、それにうまく沿っている、と思った。

山陰の小さな村の小さな学校、小学生から中学生まで数えられるほどの生徒たち。狭いコミュニティ / カルチャーの中で繰られる日々のイベントは、大袈裟な起伏とは縁遠く散文的、長閑というよりはdull。
エピソードの顛末も時には放物線を描いて落ちるようなもので、なにか劇的な解決には至らなかったり。一応の中心となる、地元娘そよ(夏帆)と東京からの転校生大沢(岡田将生)の関係にしたって、お世辞にも《運命の》などとは言い難いものだ。

しかしそれでもそんな端々が積み重なるうちに季節は巡って、風景も人も変わりゆく。もう決して巻き戻せない《何か》の存在を、少年少女たちは(具体的に指し示すことはできずとも)感じ取り、惜しむ。
そのことを、変わらない(動けない)校舎という建物を通した視点で表現するラストはとびきり切なく、ずるいくらい美しく、息を呑む。

登場人物たちの内、あるいは田舎の過疎村という環境それ自体が時折垣間見せる濁った一面の描写については、原作の鋭さに比べると少し物足りない感も。ただ、安易なモノローグ連打等にしなかった点は好感が持てる。

そよが、地元の山にも東京のビル群にも同じように聴いた「ごうごう」という風の音は、これからも彼女と共にあるだろう。その音に耳を傾けられる限り、何処へ行っても大丈夫。

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音楽はレイ・ハラカミ、自然音と融合するチル。

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方言台詞のためか、U-NEXTの音源のためか、わたしの耳がポンコツだからか、はたまたその全てによるのか、本気で聞き取りづらい場面が多くてすこし困った。字幕ほしい…けれど、それはそれで雰囲気が壊れちゃうのだろうな。