稲葉光春

「A」の稲葉光春のレビュー・感想・評価

「A」(1998年製作の映画)
4.4
本編中で森達也監督がニュートラルな立場で取材するといっているように、この作品では、非常に冷めた視線で、オウム真理教で残された信者たちとそれを取り囲むマスコミの様子を映している。しかし、そんな中でも強調して描かれている部分はあると思われる。それは社会が異質なものを排除しようとする力である。ジュリア・クリステヴァが棄却作用といったように、社会や構造は、それを成立させる際に、異質なもの・理解できないものを徹底的に排除する。この作品では、マスコミ、警察、司法がオウムを徹底して社会の外へと排斥し、自分たちには理解できないものとして取り扱う様子が描かれている。警察は、乱暴な職務質問で信者を無理やり逮捕してしまうし、司法は無理に破防法を振りかざし、オウムには人権がないとまでいいきる。
つまり、みんな怖いのである、「オウム」と自分たちが同じ人間であるということが。自分たちと同じ社会で生きるものは、自分たちが理解できる人間であってほしいと思っているのである。
稲葉光春

稲葉光春