レインウォッチャー

ニキータのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ニキータ(1990年製作の映画)
3.0
前半ハードボイルド・マイフェアレディ、からの後半ブラッディ・ローマの休日。

散漫…だわねって印象が残る。
ヤク中のチンピラから華麗な殺し屋に仕立て上げられるニキータ(A・パリロー)、彼女のキャラが強かなのか豆腐メンタルなのか、エキセントリックなのか古風なのか、最後までふらふらと定まらないのだ。セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?

もちろん、性格に多面性があることは悪くない、というかむしろ魅力的な人物に見せるには必須条件のひとつだと思うのだけれど、

・強さも弱さもある

のと、

・強いのか弱いのかよくわかんない

のは同じようで別物であると、この『ニキータ』を見ているとよくわかる気がする。
この明暗を分けるポイントは色々と考えられそうだけれど、ストーリーが進んで主人公の内外が変わってゆく中でも、ここだけは変わらない《一貫性》みたいなものを強調できているか、は大きいのではないだろうか。たとえば、癖や哲学、愛用する小物とかファッションなどで表現できると思う。

この点、後年の同L・ベッソン作品となる『LEON』なんかではブラッシュアップされている。
今作のニキータは、『LEON』のマチルダ(N・ポートマン)の原形的要素が詰まったキャラともいえる。孤独な身の上、殺しの技術を新たな保護者(男)から習う、それにあのウィッグまで。しかし、マチルダはどんなにレオン(J・レノ)との関係性が変化し様々なことを学んでも「弟の復讐」という信念をブラさないし、首元のチョーカーが彼女を彼女であると常に思い出させるのだ。

ストーリーの方も似たところがあって、なんとなく漠然としている。冒頭に書いたような趣のシフトがあまり良い風には働いておらず、ハテ何を中心にした話だったのかしら、となる。
たとえばそれを勢いで押し切るほどアクションシーンが派手とかゴアゴアってわけでもなく、意外としっとりとした感情面のドラマを描こうとしている風でもあるので、うまく解消されないままだ。

そもそもニキータを《教育》する組織の存在がモヤっとしている。あんなに手間をかけて殺し屋を育成して、結局何が目的の組織なのか、なんであんなに作戦がグズグズなのか、全体像はどうなっているのか、最後までよくわからない。
これを、「よくわからないが故に駒でしかないニキータの孤独が際立つ」とか受け取れる可能性もあるのだけれど、ニキータの人物設計と同じように不足の方が目立つ印象だった。というか、『LEON』でも『フィフス・エレメント』でもそのへんの裏設定面は「えい!」って感じだったので、あんまり何も考えてないってほうが当たってるのかもしれない。

そんなわけで文句ばっかり前に立ったけれど、要所要所でおもしろがれるポイントはちゃんとある。
ライフルinバスタブとか笑ったし、オードリーリスペクトのデカ帽子ファッションはセルフネタバラシぽくてかわいいし、J・レノが殺し屋役で出てくるのも嬉しい(今作の彼はただのポンコツサイコなんだけれど)。

あとは音楽、L・ベッソン映画では盟友のエリック・セラ。今作では80's〜90'sの境界らしい、古いヒップホップ風のビッグビートが印象的で、引き出しが広い人なんだなあと再確認。