シズヲ

マイ・プライベート・アイダホのシズヲのレビュー・感想・評価

3.6
ポートランドで男娼として暮らす若者二人の青春と旅路、そして離別。中年男性相手の売春行為や近親相姦をルーツとする出自などのハードな設定が目立つものの、映画自体はあくまでストリートの下層で生きる若者達を詩情と共に描いている。どうやらシェイクスピアの戯曲をベースにしているらしく、「アウトサイダーの中年男とつるんでいた上流階級の青年が父の危篤を経て最終的に元の鞘へと収まる」という筋書きはほぼそのままっぽい。

粗筋だけ見ると“生き別れた母親を探す旅”を描いたロードムービーのように思うけど、実際のところ其処まで主軸として据えられている感じでもない。このへんは見ててちょっと驚いたし、中盤までは思ったよりも物語に取り留めが無いのであまり面白くもない。ただ雑多なストリートやそこに生きる若者達の生々しい姿は印象に残る。ナルコレプシーの設定も印象的ではあるけど、話のギミックとしてそんなに効果的に機能してる感じはしない。

それでもこの映画が印象に残るのは、やっぱりリヴァー・フェニックスとキアヌ・リーヴスというW主演が何よりも秀逸だから。複雑な心情を抱えた若者の哀愁を滲ませる二人の繊細な演技が何よりも愛おしい。マイクが野宿の際にスコットへの恋慕を告白するシーンはリヴァーの痛切な雰囲気も相俟ってとても好き。監督の故郷であるポートランドでの撮影に拘ったらしく、ロケーションの美しさも実に印象深い。一本道が続く荒野を捉えたロングショットなど、幻想的な趣が漂う情景の数々が映画の空気感を作り出している。過去の幻影がフラッシュバックするニューシネマ的回想や雑誌の表紙を飾るグラビア同士で掛け合いをする演出なども印象的。

自分の“帰る場所”を求めるかのように母親の影を追い続けたマイクに対し、初めから“帰れる場所”があったスコット。序盤の時点で彼自身も今の生活に見切りをつけることを語っていた。スコットはあの猥雑な青春から卒業できるし、その先の人生も見つけられる。しかしマイクは違う。スコットが去った後も、あの荒野の果てなき道で横たわるしかない。前述の野宿中の告白やローマ到着後の展開、葬式のシーンによって示される二人の断絶はエモーショナルでありながら痛ましい。マイクは“誰か”に拾われるという結末を迎えるけれど、その後の彼に何らかの救いはあったのだろうか。意味深なラストが不思議な余韻を残す。
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