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黄色いからすのdiesixxのレビュー・感想・評価

黄色いからす(1957年製作の映画)
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終戦から数年経ってようやく復員した父親と息子が、おずおずと遠回りしながら空白を埋める再生ドラマ。生まれて一度も会ったことのない父親との関係に戸惑う息子。息子との関係を築きたくとも、大きく変わってしまった日本社会についていくだけでも精一杯の父親。ちょっとしたことでつまづき、すれ違い、絡まり合うもどかしい親子関係。どちらにも至らぬところがあり、どちらにも愛すべきところがあるバランス感覚がすごい。
子役の設楽幸嗣は小津の『お早よう』で駄々こねるだけでテレビ買ってもらうクソガキだったが、本作では年相応の未熟さと危なっかしさ、純粋さを高度に演じている。
母親役の淡島千景や先生役の久我美子も素晴らしいが、わけても家族を温かく見守り、手を差し伸べる隣家のシングルマザー、田中絹代のポジションが秀逸。身寄りのない孤児を養子にとって育てているが、それを隠すでも恥じるでもなく、しっかりと子どもに愛情を注ぐことで、自尊心と安心感を与えてくれる。親というより「大人」であることの大切さを教わった。
児童向けの甘ったるい道徳映画かと舐めてかかると、抑制の効いた演技と繊細なシナリオに終盤たっぷり涙を搾り取られる。50年代の保守的なホームドラマかと思ったら、話の骨格やメッセージは、ほぼ『そして父になる』だった。
JAIHOにて初鑑賞。五所平之助初のカラー作品だが、画質は良くなく褪色している。米ゴールデングローブ賞まで受けているのに、なぜこんなに知名度が低いのだろうか。しかるべきプリントで復活してほしいものだ。
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