バロックに浸りました。余韻が素晴らしく幸せな気分が数日続きました。初めて聴くヴィオールの豊かな音色と繊細な響きに心奪われました。17世紀に実在したヴィオール奏者の巨匠サント=コロンブが弟子マラン・マレを認め、互いの心が共鳴するまでの数十年を描いています。
マラン・マレの青年時代から壮年以降をドパルデュー親子が演じわけています。本格的なデビュー作となった息子ギョームの美しいこと!
ヴィオールはコントラバスのように脚に挟んで弾くのは同じですが、弦が多くかつて宮廷や教会等の室内で奏でられた弦楽器でした。
質感の伝わってくるきめ細かい映像はバロック絵画のままで、カラヴァッジョのように明暗をはっきりつけ写実的で、夜はラ・トゥールのように蝋燭の灯りで静かに、日常の明るい窓際はフェルメール、人物はレンブラント、卓上は写実的な静物画、風景画はクロード・ロラン。どこを切り取っても絵画で溜め息のでる美しさです。
ストーリーもバロックでした。
二人の明暗がはっきりとし、
ドラマチックなのに静謐。
音を日常から写実し、沈黙に至ろうとします。
絶対王政の宮廷のための音楽ではなく、故人を追悼するとき真価が示されると師は信じていました。
弟子が破門されても師から学びたく何年も床下で師の復活を待つ姿、
美しい曲を生み出すのにストイックで生きている者への愛を見せず踏みにじる師の姿、
俗世を拒絶し死者を悼む音、
美しくもいびつな真珠のようでした。
師の悔恨の思いに至った弟子との問答は二人が音で結びついた瞬間で言葉を超えて深く染み入りました。
ジェラール・ドパルデューの不安が喜びに変わっていく表情。
ジャン=ピエール・マリエールの初めて他者に向き合い理解され、心がほぐれていく喜びの表情。
二人の名優の緊張が喜びに変わっていく演技は圧巻でした。涙が止まらなかったです。
原題は「世界のすべての朝」。
死者を悼むことで命が生き返ると理解しました。
こんなに幸せな余韻に浸れた作品は久しぶりです。名作だと思います。