不在

かくも長き不在の不在のレビュー・感想・評価

かくも長き不在(1960年製作の映画)
4.8
我々人間は生まれてから現在に至るまで、ずっと同じ人間だ。
過去のどの場面を切り取っても、またこれから訪れるであろう未来の場面においても私は私であり、自己の同一性は確保されているように思える。
しかし人間の細胞は絶えず入れ替わり、記憶に至っては忘れてしまったり、書き換わっていたりする。
「私」とは一体何なのだろう。

イギリスの哲学者ジョン・ロックはそういった議論の第一人者であり、人格の同一性とは意識が続いている事、つまり過去の記憶によって確立されると説いた。
この説を踏まえると、最早アルベールはアルベールではないという事になる。
一方でデイヴィッド・ヒュームは自我とはただの知覚の束だと主張した。
端的に言うと、人間とは今この時に感じる感覚が集まっているだけの存在でしかないという事だ。
人間という存在に対するアンチテーゼのように聞こえるが、アルベールにとっては救いになるような気がする。

しかし様々な哲学者達があれこれ議論を重ねたとしても、結局大事なのはアルベールの気持ちだ。
全てを知った上で彼は逃げ出した。
彼にとって自分はもうアルベールではなく、冬になったら何をするかは、自分で決めるべきなのだ。
不在

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