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かくも長き不在のkomoのレビュー・感想・評価

かくも長き不在(1960年製作の映画)
4.2
セーヌ川の近くでカフェを営むテレーズ(アリダ・ヴァリ)は、あるホームレス(ジョルジュ・ウィルソン)の姿を見て狼狽した。16年前にゲシュタポに連行されてしまった夫のアルベールにそっくりだったからだ。
彼と言葉を交わすことになるも、本人は記憶喪失でテレーズのことを覚えていなかった。


ずっと観たいと思っていた作品に触れられてよかった。主張の強くないささやかな作品ですが、しっかりと心に刻まれました。

テレーズたちのそばを流れるセーヌ川の美しさ。時が人の顔の皺を深くさせても、川はずっと変わらぬ優しさでせせらいでいる。
記憶がないのにオペラの一節だけ憶えていて、幾度も口ずさむアルベール。
そんな彼の姿を知ったテレーズの悲しみにもまた、音階が纏われたのではないだろうか。悲しみには変わりないが、この世に彼の音が存在しているという揺るぎない真実によって。
だからテレーズはアルベールをダンスに誘い、ふたりは息を合わせて踊る。
しかし、彼らのためのレコードが終わる瞬間の静けさは、音楽の存在していない世界より寂しい。

イタリアの『ひまわり』に続き、時代背景によって引き裂かれた夫婦の物語が胸を打ちました。
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