バナバナ

日本のいちばん長い日のバナバナのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
5.0
本作は二部構成になっており、一部ではポツダム宣言を受諾するかどうかの、静かだがヒリヒリした閣議会議が続き、
二部では、閣議で日本が降伏することに決まり、天皇陛下が8月14日に録音された終戦の詔の玉音放送を奪取するため、将校や近衛師団がNHKや皇居を占拠したクーデター事件を描く。

見応えあったのは、やはり二部の“宮城事件”の方なのだが、
士官学校出のエリートの筈なのに、なんでこんなにバカなんだろう。
この人達は、何の為に戦っていたんだろう?
昭和天皇が「国民にこれ以上の犠牲を強いるのは忍びない」と言って、ポツダム宣言を受諾する決意をされたのに、陛下の意向を無視し、
「国体の為、国体の為」と言いながら、結局は、「陛下に考え直して頂く!」と軍事クーデターを決行するとは、どんだけ傲慢なんだよ。
天皇陛下でさえ脅せば自分達の思い通りになる、と思っている己の高慢さに全く気付いていない。

幕末に、薩摩や長州はイギリスの戦艦に砲撃してイギリスと戦争になったけど、負ければ現実を直視して、すぐ軌道修正をしていた。
自身も明治時代に元軍人であった首相、鈴木貫太郎は、ソビエトに北海道を占領される前に降伏しなくてはいけないと、負けた後の日本の事も考えていたというのに、
20代から50代まで日本の中枢に居た現役の軍人達は、どうして先の事を考えて行動できなかったんだろう。
挙句の果てには、「まだ二千万人の特攻を出せば勝機はあります」なんて進言するアホも居たし。
こういう事言う奴程、絶対に前線に行かへんし、絶対、特攻もせえへんやん!

「今の軍人は、負けた経験が一度も無いからな…」とか言っていたが、明治時代の軍のエリートと、第二次世界大戦時のエリートとでは、中身が大分違う気がする。
なんだか、昨今の事件起こして逮捕される二世タレント達と変わらない、世間知らずの(世界情勢を無視する)甘ちゃんなだけだった様に見えてしまった。

こんなアホどもが大本営で作戦立案してたから、日本はあそこまで焦土になっちゃったんだよ。
今の北朝鮮のトップ達となんら変わらんやん。
こんな人達に任せていたなんて、そりゃ負けるわ…、と思いました。

俳優さん達は、台詞はほとんど無かったけど、白黒映画でも常に悲しみを湛えた様に目が潤んでいた笠智衆、
割腹しようと腹をくくっている阿南陸軍大臣役の三船敏郎の他、
『仮面ライダー』で死神博士を演じていた天本英世さんが、声を張り上げて演技しているところを初めて見ました。

中でも一番役に合っていたのが、クーデターを起こした畑中少佐役の黒沢年男。
絶えずギラギラしていて、絶対こいつ何かやらかしそう、という感じで凄かった。
エンドロールで、この時代にネームバリューではなく、出番順で俳優達の名前が表記されていたのも、制作会社の気合が感じられて良かったです。

ただちょっとクレームをつけると、顔出しはしていなかった昭和天皇ですが、俳優さんの体が太っている!
『天皇の料理番』を書いた、元皇居の料理長だった秋山徳蔵さんによると、戦時中は皇居の食糧庫もスッカラカンだったそうで、
天皇陛下も配給制の庶民と同じ様な物をお食べになっていたそうなので、もっとお痩せになっていた筈(陸軍省の食糧庫は満タンだったそうだが)。
この映画を撮った頃は、まだ秋山さんの回顧本が出る前だったので、きっと天皇陛下なら戦時中でも良い物を食べていたんだろう、と思われてのあの体型だったのかな。
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