いののん

日本のいちばん長い日のいののんのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
4.2
熱い熱い1日。男たちは、顔中から、体中から、汗を噴き出させている。炎天下の夏。そして、彼らは、自身の内側からも、熱い血潮を吹き出させる。「あっ、汗染みが!」「あっ、脇汗が!」などとほざこうものなら、即刻、打ち首獄門となるだろう。軍人の彼らが発する声は、絶叫に近く、とにかく全身全霊で生きている。


長い長い1日。1945年8月14日正午から、8月15日正午まで。戦争を終わらせることは本当に難しい。様々な思いが交錯する。男の未練はやっかいだ。執着と言ってもいい。正義は自分の側にあると思い込む。自分こそが、誰よりもこの国の行方を案じていると、狂気の沙汰に走っていく、そんな若き陸軍の兵士たち。思えば、そんな兵士を育ててきたのは、この国だ。開戦前から、ずっと狂気の沙汰である。「こうすれば勝てるかも」「こうなったら上手くいくかも」と、都合の良い理屈だけを選択して、開戦したのだから。


観客(私)は、玉音放送は流されることになると理解してはいるのだけれど、特に後半の、たたみかけるような、スリルあふれる展開に、絶えず緊張を強いられる。読み上げられる終戦の詔勅が、レコード盤に刻まれていく場面と、その時にでさえ特攻で死に向かう若者と、その特攻隊員を送り出す歓声。その交錯に、胸を締めつけられる。じわじわと、じりじりと、それこそ、汗が染みていくように、岡本喜八監督の、この映画に込めた反戦の思いが、私の身体のなかを、駆け巡っていく。脚本は橋本忍。エンドクレジットでは製作者のひとりに、田中友幸の名前もあった。ゴジラの人だ! そして、感嘆すべき出演者たち。よくこれだけの役者が集まったものだ。適材適所とは、まさにこのことをいうのだろう。濃すぎる人から、いかにも侍従という人まで。「7人の侍」の人たちも出てきて、うれしいのでござった。


とにかく素晴らしい作品だ。ただ、この作品は、相方を求めているような気がしてならない。例えば、この映画は、日本の敗戦に焦点をあてた映画である。ならば、開戦に向けた1日が語られる映画があってもいい。その候補のひとつに、1945年9月の帝国国策遂行要領を決定した日を入れてほしいけど、絶対に製作されないこと間違いなし。だって需要がないもん。んなもん、作られるわけねえ。


また、この映画は、国内に焦点をあてた映画である。最後にクレジットで、戦死者の数など、日本人の被害がいかにひどいものであったのかが、数字で語られる。日本の被害が語られる時、日本人の苦しみが語られる時、その対として、他国への加害の視点が語られる映画があっても良いのではないかと私は思うけど(しかも商業映画で)、それも無理だろうな。コンセンサスが得られるワケねえ。ものすごく悲観的な気持ちになって、絶望的な気持ちにもなってきた。同じ事はもう二度と繰り返されないと、誰が言い切れるのか。私たちは、簡単に道を誤っちゃうんだよ~ん。あっかんべー。書きながらどんどん支離滅裂になってきていることを自覚しているけど、支離滅裂になって滅茶苦茶になって、自暴自棄になりたい気持ち満々。だからもう書くのやめます。頭かきむしりたい。
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