半兵衛

たけくらべの半兵衛のレビュー・感想・評価

たけくらべ(1955年製作の映画)
2.5
樋口一葉×美空ひばり×五所平之助という異色の組み合わせに期待していたけれど、あまり面白くなかった。演出や俳優云々ではなくて、樋口一葉の小説は観念的なので映像にしてみると現実と乖離しがちになり、そして映像化することで原作の美文によって紡がれる世界が失われるという悪循環にこの映画がなってしまっている印象なのだ。

それに主人公の美登利を美空ひばりはどう演じていいのかわからないまま演じている感じであったが、恐らくどんな名女優でも「姉が遊郭で働いていて自分も遊郭で働くことを理解しており、恵まれた生活をしていても心が晴れずアンニュイな言動や行動を繰り広げる少女」というあまりにも難解な役どころを掴むのは難しいので仕様がないと思う。

それでも明治時代の下町を再現したセット(京都のスタジオを借りて撮影したらしい)は見ごたえがあるし、こういう文芸映画の中に貧しい者の描写を手を抜くことなく入れてくる五所監督のヒューマニズム演出は冴えている。

でも最大の見所はかつては売れっ子の花魁であったが、今では小さい駄菓子屋を営む病気がちな中年女性を演じる山田五十鈴である。彼女の感情のふと見せる色気と、みすぼらしい格好とのギャップや言動が落魄した女性の姿を見事に表現し、華やかな世界の裏にある残酷な世界を見る人に伝えることに成功している。そんなうらぶれた女性なのに不良少年の言動にキレて、ヤンキーばりのビンタと啖呵で少年をビビらせるシーンが笑える。

美登利が恋する男性など若手俳優の演技が今一つ印象に残らないのも痛いかも。
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