りっく

幸福(しあわせ)のりっくのレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
4.5
まるでジャン・ルノワールの名作「ピクニック」を連想させるような森の中での家族の幸せな光景から始まる本作は、鮮やかな色彩溢れる画面や優雅に流れるクラシック音楽によって醸成される多幸感に満ち満ちているように見える。

だが、それはあくまでも主人公の主観なのかもしれない。妻ともう一人の女性を愛する不倫関係に対し全く悪びれもせず、むしろ愛する相手が倍になったことで、幸せもまた倍になったと自惚れるような人物だ。そして相手にも自分をもっと愛することで、愛に溢れる関係性を望む。

ある意味で完璧な世界において、アニエス・ヴァルダは様々な撮影技法を駆使し、その世界観を歪ませ、違和感を生じさせる演出を施す。そのいちいちがオシャレで、クールで、それでいて鋭利だ。

彼女のラディカルな姿勢は、不倫を題材にしているにも関わらず、劇中の4人家族を実際の家族に演じさせるキャスティングからも見て取れる。ドキュメンタリー的な手法で映画を制作し続けた彼女の、ある意味で極地に辿り着いた傑作だ。
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