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幸福(しあわせ)のbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

絵に描いたような幸福な一家だったが、夫が浮気をする話。終盤まで本当にそれだけでそれ以外は一切ない映画なので、かなり肩透かしというか「何だこの胸糞の悪いだけの映画は」と違和感を持って観ていた。それでも場面場面の圧倒的美しさとジャンプカットを多用した演出の独特さで、何とか飽きずに鑑賞を続けた。

終盤、"嘘がつけない正直者"を自負する夫フランソワは、悪びれもせずに妻テレーズに浮気を打ち明ける。「どちらも愛している、悲しむことじゃない」と言って。妻は頷き、そのまま二人は愛し合うが、夫が目を覚ますと妻は死体で発見される。自殺か事故なのかは一切見せない。

そしてラスト10分、ここからが本当に怖い。フランソワはそのまま浮気相手エミリと逢瀬を続け、エミリと子供二人と出かけ、子供はエミリに懐き、エミリは当たり前のように家で子供たちの面倒を見てテレーズが寝ていたベッドでフランソワと愛し合う。冒頭の4人家族と全く同じように、4人で森で幸せそうに過ごすシーンでこの映画は呆気なく幕を閉じる。テレーズがエミリにすり替わっただけで、何も変わらないかのように。元々テレーズなんていなかったかのように。そしてこの映画のタイトルは「幸福(しあわせ)」である。もう物凄く怖い。

たださすがに終盤になるまでは浮気以外本当に何も起こらず、フランス映画特有のテンポの悪さがあるため、かなりのんびりとしていてちょっとキツかった。3倍速で観て丁度良いくらいのテンポ。

鑑賞後に改めて"何とも言えない表情で微笑むテレーズに手を伸ばす幼い息子"という構図の映画のポスターを見て、胸が締め付けられた。あまりに怖くてゾッとする映画。しばらく引きずりそう。
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