デニロ

死者との結婚のデニロのレビュー・感想・評価

死者との結婚(1960年製作の映画)
3.5
シネマヴェーラ渋谷での特集「日本ヌーヴェルバーグとは何だったのか(2019)」の一篇。1960年製作公開。

高橋治の作品を観ようと決めて通う。映画から作家へ。大昔、朝日ジャーナルで「派兵」というシベリア出兵の作品を書いていた。聞いたことのない名前だったけれど、随分と長く連載していた。もちろん読んではいない。後に「風の盆恋歌」という作品が流行歌と相まって読まれていた。サラリーマンは仕方なく読んでいたように思う。その時に松竹の監督、しかも松竹ヌーヴェルバーグの時代の映画監督だったと知る。ああ、名前だけはよく出ていた高橋治と同一人物か。田村孟と並ぶ異才。

本作は、ウィリアム・アイリッシュの原作を田村孟と高橋治が脚色したもの。ウィリアム・アイリッシュと言えば「黒衣の花嫁」「幻の女」などが有名で、彼の作品を原作とする映画も多い。わたしは翻訳版でしか読めないので、その特徴とされている独特な詩的な文章というものに触れられず物語を追うだけ。サスペンスにありがちなご都合的な部分や、後出しじゃんけんじゃないか、と思えるような部分もあるけれど、楽しめればいいや。

ふとした間違いから旧家の嫁に収まり、しかもそのいつわりの事実に煩悶する女性小山明子の話。義弟に渡辺文雄、義母に東山千栄子。顔と名前が一致するの俳優はこの三名。小山明子の元ヒモが重要な役で高野真二という役者が演じている。にやけた悪党でなかなかのはまり役。

女性は男性と結びつくことによって糧を得るというような、まだそんな時代。その男性の経済的価値が女性の地位に結び付く。何とも恐ろしい弱肉強食時代。男性も経済的に潤っていなければ女性を獲得できない。女性の社会進出で女性の収入も増えてはいるが、男性/女性の格差や、かれらの背景にある経済格差によって、また、構造改革による非正規雇用の拡大等々、徐々に幸福感の薄くなっている昨今、結婚プログラムも変化している。ああ、こんなことの繰り返し。世の中のせいにするしかないんだろうか。

原作は、誰が殺した彼のサスペンスなのだと思うけれど、本作は小山明子の心理サスペンス。何もかも打ちあけて去っていくラストシーンはフランス映画風で痛ましい。
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