三隅炎雄

望郷と掟の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

望郷と掟(1966年製作の映画)
3.3
安藤昇松竹時代のひとつ(主演3作目)。安藤をリーダーにした五人組が中国系密輸組織から金の延棒を強奪する。前半はハードなタッチの松竹離れした面白さだが、残念ながら脚本が致命的で後半急速に萎む。強奪後どう逃げおおせるか、ここまで無計画だと追い詰められていく過程のサスペンスが成立せず、ジャンル映画として興味が失せる。

ただ、ドヤを中心とした戸田重昌のリアルのようでいてどこか歪んだ少々表現主義的な美術と川又昂がロケで見せる生々しい記録映画的なカメラが絡み合う世界は、独自の個性があって魅力的だ。密航で祖国に帰りたい朝鮮人の砂塚秀夫が、宿無しの道化にしか見えない船乗りに誘われて汚いダルマ船の内部に入ると、そこにはモダンなバーがあって、女たちがジャズに合わせて体を揺らしている。意表を突くその空間造形に、映画を見る喜びがある。戸田のユニークな装置を見るだけでも値打ちがあろう。

関西弁のバラケツ竹脇無我は、田宮二郎を甘くした感じで悪くない。彼と安藤とのブロマンスはもっとうまくやりようがあった気がする。ほんの僅かな出番だが、吉田義夫が暗黒街に繋がるバーテンを演じて、これが見事だった。こういうハードボイルドな吉田義夫は珍しい。全体は不完全燃焼のプログラム・ピクチャーだけれども、戸田重昌の美術とこの吉田義夫を見ることが出来て、私は得をした気分になった。
三隅炎雄

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