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櫻の園のtakのレビュー・感想・評価

櫻の園(1990年製作の映画)
4.5
女子校である櫻華学園。創立記念日には、毎年チェーホフの「桜の園」が演じられる。演劇部員たちがステージに向かう開演前の約2時間を写し撮った"普通の"青春映画。そこには芝居かがった台詞があるわけでもなく、"普通の"会話と部員たちの表情が描かれている。その会話の中に見えてくるのは、繊細な心の動き。脚本がいいのだ。

好きな90年代の邦画を10本挙げてと言われたら、間違いなく選んでしまうお気に入り。ショパンの前奏曲と共に心に残る映画。

女の子同士の、友情とはちょっと違う関係。憧れと呼ぶのが相応しいのか自信がないけれど、それはある種の愛情。言葉で表現しづらいそんな気持ちが、この映画に刻み込まれている。男子の僕にも感動的だったし、引き込まれてしまった。

志水部長(中島ひろ子)がボーイッシュな倉田(白島靖代)に対して抱く愛情は、場面場面のちょっとした行動や短い言葉で描かれる。胸が目立たないように衣装にリボンをつける場面、二人で一緒に写真を撮る場面に高まりを見せる。
「私、倉田さんが好き」
何気ないひと言だけど、上演が始まる直前、一緒にいられるわずかな時間に発せられたそのひと言。込められた思いにこっちも苦しくなる。

その倉田に同じような気持ちを抱いているのが杉山(つみきみほ)。二人が写真を撮っている場所の物陰で、杉山は黙って煙草に火をつける。昔から映画に出てくる煙草のシーンは、いろんな感情を無言で示してくれる。この無言のシーンに感じるのは、静かなのに燻るような熱だ。憧れ、片思い、嫉妬、素直になれない自分への苛立ち。いろんな感情を打ち消す儀式のように、杉山は黙ってライターで炎を灯す。

監督の中原俊は、にっかつロマンポルノ時代にも女性同士のプラトニックな感情を描いてきた人と聞く。「猫のように」を観たことがあるが、姉への愛情から過激な行動に出る妹がとても印象的な秀作だった。その妹役だった橘ゆかりが、演劇部OBの役でこの「櫻の園」に出演している。短い場面だが、この部室でいろんな気持ちを味わって一歩大人になったんだろうな、と想像させる素敵な場面だった。
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