CHICORITA主任

阿修羅のごとくのCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

阿修羅のごとく(2003年製作の映画)
4.6
森田芳光70祭2023 in 新文芸坐にて。上映後にはライムスター宇多丸氏と監督の妻でプロデューサーの三沢和子氏によるトークショー付きでした。

向田邦子脚本による同名ドラマのリメイク作品。向田脚本の映画化は監督にとって悲願だったそう。

宇多丸氏の表現するところの「四大怪獣」、大竹しのぶ・黒木瞳・深津絵里・深田恭子という超豪華女優陣が四姉妹を演じ、また原典となるドラマでメインキャストだった八千草薫が母親役を、そして仲代達也が昭和的父権を象徴するような父親役を演じる鉄壁のキャスティング。さらに小林薫や桃井かおり、中村獅童や木村佳乃といった脇を固める俳優陣も豪華すぎる顔触れです。

ストーリー的には原作ドラマの第二部までを2時間強にまとめているため、次から次へと事件が起こる高密度展開ながら、駆け足感を覚えることのない見事な構成。笑いあり涙あり修羅場ありの、非常に振れ幅の大きいホームドラマが展開されます。笑えるところはしっかり笑えて、特にこれまた宇多丸氏によって『ゴジラVSコング』に例えられる、大竹しのぶ対桃井かおりの対決シーンには場内が笑いの渦に包まれました。

この前に見た『未来の想い出』が、女性を主人公としたことで2023年現在にも通じるメッセージを獲得した一方、本作は原作の時代設定である昭和54〜55年という時間を固定して描く一種の「時代劇」。昭和的家父長制の中でもがく女性を「阿修羅」として描きますが、その前提となる家父長=強い父親像が2003年に仲代達也が演じて見せるのがもうギリギリ、次に同じことをやるのはもうできる役者がいないから無理だろう、というのが宇多丸氏の見立て。

やけに次やるなら?の話が多かった気がするのは、是枝裕和監督が『阿修羅のごとく』を再リメイクするのではという噂のせいでしょうか。もしかしたら信憑性がある噂なのかもしれません。是枝監督は『海町diary』という、本作に連なる四姉妹映画を既に撮っているので、その発展系としてやるというのはいかにもありそうな話に思えます。

ともかく重厚で濃厚で、笑いも涙も酸いも甘いも全部乗せ、それでいて観やすいホームドラマコメディの名作です。
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