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カリスマのefnのレビュー・感想・評価

カリスマ(1999年製作の映画)
4.2
 黒沢版マタンゴ。99年にこの題名をつけているのだからオウムの事が頭になかったはずはないんだけど、あえて優生主義と(功利的)平等主義の対比に持ち込んでいるあたり先進的だった。(思想を超えてカリスマが力を持ってしまうあたりはオカルトだけど)
 主題と画面の相性も抜群で優れたものを残すために間引く=細々とした木々が倒れる、平等を実現するために大木を殺す=井戸に毒を流すといった読替がバチバチはまっている。しかも、倒木は彼お得意の遠景長回しで会話とのタイミング合わせが完璧だった。
 後半の人間の政治思想から森林による侵略戦争への主題移行も殺意大盛り。椅子に座った洞口依子がワンテイクでグーッと剣で貫く様は圧巻。人間界の後片付けがゆったりとしたハンマーの振り下ろしで示されているのも森の空気感を感じさせる描写で面白かった。アクションとしてハンマーで殴りつけたり、クローズアップで割れば映画としての違和感は抑えられるのに、あえてあの間を取っているのは流石だと思う。
 あと大杉漣一行がきのこを食べるのは明らかにマタンゴだよね。黒沢自身がハマーフィルムやマリオバーヴァを偏重する人というのは知っていたけれど、こんなところで東宝特撮からの引用を見ることあできるとは思わなかった。しかも植物による人間社会の侵略という主題どおり。首吊り死体を観てゲラゲラ笑うシーンは人間に対する森の優越を一瞬でわからせる名場面だと思う。
 読替ものとしては間違いなく邦画の最高水準をいってる。木を利用した政治思想風刺という発想、特撮映画からの引用、何より森の空気感に合わせてすべてが調整されている。CUREよりも好きかもしれない。
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