Automne

それからのAutomneのレビュー・感想・評価

それから(1985年製作の映画)
5.0
明治時代の中流/上流階級の慎ましやかな暮らしが感じられて素晴らしかった。
構図とカメラワークの美しさに息を呑む。

やはり大正に入りかけるこの時代の和洋折衷な感じ、それぞれの個人が理性的に物事を考えている姿勢、アナログな生活の中にも繊細さを見出す精神がとても好きだ。こないだ友人と、日本人って海外の人と比べても20代が10代に見えたりするのは精神的な年齢もあるかもしれないという話をしていた。しかしこの映画内で描かれる戦前の大人(30歳)は、現代で私が思う30歳と比べ、信じられないくらいきちんと"大人"をやっている。こんな時代もあったのか(美化されてはいても)と郷愁を感じた。

物語はある種夏目漱石らしいデカダンス×『こころ』みたいな感じで、スピードもテンポもゆっくりではあるが、絵づくりの良さと役者の仕草や演技ですべて持っていかれる。ホン•サンスver.よりもこちらが断然好み。

本作を見ることによってかつて"文豪"と呼ばれていた人たちの本質も、前よりクリアに見えてきたような気がする。上流階級の高等遊民で、先祖ののこした財産を食いつぶしながら芸術をつくろうとした人々。その点でやはり日本文学(特に純文学)の物語には社会に対する甘さや、彼ら自身の現実と向き合ってなさ(贅沢な悩み)が描かれる。その意味で日本の文学には物語それ自体の脆さを感じる。故に純文学は廃れたのだろう。

ストーリー的な点においてfilmarksの評価低めな気がするけど、それは日本語話者から見たこの映画でしかないような気がする。ヨーロッパ映画の絵作り美しくてストーリーの中身ないものにfilmarksで高評価が下されているのをみると、母国語は潜在的に厳しくジャッジしてしまうという、言語というものの限界、映画の受け手の限界を見る。

さまざまにあるけれどもイマージュ=時間の徹底した演出と伊丹十三メインでやってた撮影監督の映像美を体験できる傑作です。
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