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木枯し紋次郎のHKのレビュー・感想・評価

木枯し紋次郎(1972年製作の映画)
3.7
市川崑シリーズのTV版『木枯し紋次郎』が大好きで、もちろん全話観てますし録画して自分でベストセレクションDVDも焼いたし、TV版サントラCDも持ってます。
主題歌もBGMも頭に沁みついており、もはや紋次郎は中村敦夫の他は考えらないため、この東映の菅原文太バージョンは存在を知りつつも今までスルーしてきました。

ところが、今お試し期間中のU-NEXTで見放題とわかり、とりあえず観とくかと鑑賞。
感想は・・・これはこれでアリかと。
なかなか楽しめました。
市川=中村コンビの紋次郎とはだいぶ趣が違いますが、間違いなく笹沢佐保(原作本も全巻読んでます)の紋次郎です。

本作はTV版には無かった紋次郎初登場の短編小説『赦免花は散った』が原作で、善意から他人の罪をかぶって島送りとなった紋次郎の島での生活と島抜けしたその後が描かれます。

監督は中島貞夫。脚本はTV版にも参加していた山田隆之と中島の共同脚本。
音楽はTVと違い木下忠司(木下恵介の弟)ですがTV版と中途半端に似たBGMでした。
ナレーションはTVと同じく芥川隆行ですが、意図的なのかTV版の名調子(“天涯孤独の紋次郎、後姿が泣いている~云々”)とは違い地味な印象。

脇を固める小池朝雄、山本麟一、渡瀬恒彦、伊吹五郎、藤岡重慶らは全員極悪人の見本。
この辺の作品でよく見かける小田部徹麿、西田良、川谷拓三らの顔ぶれも嬉しい。
江波杏子一人でこの暗く荒んだ世界に花を添えるのはもはや無理ですね。
原作者の笹沢佐保も罪人役で出演(TV版ではたしか国定忠治の役をやってました)。

オープニングはお馴染み渡世人の仁義の切り方から、どこぞの一家に草鞋を脱ぐ際の一宿一飯の作法が丁寧に描かれます(出された飯は残さず食べて魚の骨は紙に包んで懐中に入れるという流れも久々に見ました)。

殺陣もヤクザの喧嘩ですから侍の華麗な剣術とは大違いでドスを振り回して走り回ります。
多勢に無勢でも紋次郎の強さに妙に説得力を感じるのが不思議。

TV版の中村敦夫に慣れすぎて、菅原文太の紋次郎なんてと思ってましたが、この文太(当時39歳)は翌年公開となる『仁義なき戦い』の広能昌三とはまた違う魅力でいい感じ。

信じた相手に裏切られる、恩は仇で返される、やること全て裏目に出るという、もう報われなさを絵に描いたような紛れもない紋次郎がここにもいました。
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