800回以降は、なるべく同じ監督つながりでレビューを書こうと思う。
黒澤を筆頭にコンスタントに小津、木下、成瀬、市川崑と今まで観てきたけど、同じく日本の大巨匠でありながら、ちょっと敬遠していたのが溝口健二。
ずっと昔に『瀧の白糸』『残菊物語』『山椒大夫』は観たことあったけど、いずれも可哀想な話なので再び観たいという気がなかなか湧かなかった。
で、今回、コロナの騒動もあって家にいることが多くなったので、このタイミングで溝口作品を中心に観ることにした。
そのおかげで自分かどうして今まで溝口作品を苦手としていたのかがわかった気がした。それは後々書くことにして、まずは第1弾。
サイレント期の代表作『瀧の白糸』。人気水芸芸者・瀧の白糸と苦学生・村越欣彌の悲恋を描いたメロドラマ。
これは今から十年以上前に新文芸坐で観て以来である。あの時は日本映画好きの女の子と一緒に行ったのだが、その子は感動のあまり最後泣いていたのでビックリした。
弁士(沢登翠さん)がついているとはいえ無声映画で泣くとは思いもよらなかった。
ストーリー自体は確かに泣くのも致し方ない内容である。
ひょんなことで乗合馬車の御者である村越(演:岡田時彦)と知り合った白糸(演:入江たか子)は彼の気性に忽ち惚れてしまう。
聞けば村越は元々裕福な家だが没落してしまい、進学をしたいが金がないために今は仕方なく御者をしているとのことだった。
不憫に思った白糸は、自分が仕送りをしてあげると村越と約束する。白糸に優しさに絆された村越も彼女と恋におちる。
ひとが困っていると助けずにはいられない性分の白糸は村越の他にも、危篤の母を看とりたいという芸人仲間に汽車賃を用立てたり、また若い連れの駆け落ちを手助けしたりしていた。
そうした行動が旅座の座長の恨みを買ってしまう。やがて水芸の人気も下火になり白糸の生活も苦しくなった頃、座長と高利貸の岩淵まり
というあらすじで、後半は徹底的に白糸がいじめ抜かれ、最後には残酷な運命が待ち構えている。
サイレント作品なので途中字幕が入ってしまうため、後年の溝口特有の長回しが発揮できないきらいはあるものの、それでも入江たか子の凛とした美貌もあいまって全体的に見応えのあるシーンの連続だった。
さて溝口作品のヒロインは大きく二つのパターンに分けることができると思う。
一つは男を頼らないと生きていけない女たちで、ドイヒー男の身勝手さに翻弄されながら必死で堪え忍ぶ姿を描いている。
そしてもう一パターンが愛した男を助けるために自分の犠牲にする女たちである。
本作の瀧の白糸はこちらに該当し、またこれが後々の『残菊物語』のお徳や『山椒大夫』の安寿のキャラ造形に受け継がれていると思う。
まあどちらのパターンも女性が数々の受難に巻き込まれるという点では共通しているのだが……。
一般的に観ることができるバージョンはラストシーンが欠落していて、フルバージョンはフィルムセンターじゃないと観れないそうな。
だけどそれを補完してくれるのが活弁。
自分の手元にある松田春翠版もYouTubeにもあがっている沢登翠版もラストは同じ文句で締めているのだが、これが素晴らしい名調子なので本文の締めに使わせて戴く。
あゝその思い出の春の月は
霊峰白山の雪を照らし
卯辰橋架に溶けて流れて紅の
涙となりて散りて終わりぬ
風を吹き雪ぞ降る夜の北陸に
今なお残る語り草
悲恋『瀧の白糸』の完結であります
■映画 DATA==========================
監督:溝口健二
脚本:東坊城恭長
撮影:三木茂
公開:1933年6月1日?(日)