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トラベラーのCookieMonsterのレビュー・感想・評価

トラベラー(1974年製作の映画)
3.5
サッカー好きの少年がテヘランまで試合を観に行く為に、どうにか必要なお金を工面して旅をする

アッバス・キアロスタミの初期作
学校では問題児の少年が、試合見たさに悪知恵を働かせ、親から金を盗んだり、自分よりも弱い立場の子供たちを騙したり、仲間のものを売ったりする
子供の悪戯といえば聞こえはいいが、それはどこか自分よりも弱い立場の人たちからの搾取のようにもみえるが、悪巧みを企てるそのイキイキとした表情はどこか憎むことが出来ない子供のそれだ

少年が色々な人を欺いたように、権威主義的な教師には強権的に振る舞われ、チケットの売り切れという自分ではどうしようもない力に屈し、ダフ屋から法外な値段でチケットを売りつけられる
それは人が人の下に人を作り、自分よりも巨大な力に屈するというシステムを表しているようにもみえる

自らの愚行への罰が下るかのように、少年は試合を観ることが出来ない
それは寝過ごしたからなのか、試合が中止になったからなのか、説明されることはない
少年は試合開始を待つ間夢をみる
音は遠ざかった世界で、周囲の人から蔑みの目を向けられる夢
それは良心の呵責がみせたもののように、少年が観ることのできなかった試合と繋がっている

試合を観たいという刹那的な欲求に従った少年は帰りのバス代すら使い込んだはずで帰ることが出来ない
テヘランという大都市で、少年は孤独だ

キアロスタミ作品の特徴はここでも同様で、試合を観たいというワンシチュエーションで作品は進行し、登場人物たちの表情は生き生きと輝き、終わりは宗教的だ
シンプルなストーリーでありながら、イランという制約された製作条件やキアロスタミという文脈の中でみれば発見に満ちた作品だと思う
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