かずぽん

トラベラーのかずぽんのレビュー・感想・評価

トラベラー(1974年製作の映画)
4.0
監督:アッバス・キアロスタミ(1974年・イラン・71分)

アッバス・キアロスタミ監督の初期の作品ですが、やはり出演者たちには素人を起用しています。
主人公は10歳のガッセム少年で、イラン南部の田舎町に住んでいます。サッカー以外のことにはまるで興味なし。近所の子どもたちでサッカーチームを作り、ガッセムはリーダーでした。
ある日、テヘランでサッカーの試合があることを知ります。イラン代表の大事な試合だったので、どうしても行きたくて仕方ありません。
テヘランまでの往復のバス賃、入場券の計算をします。全然足りないのですが、ガッセムは諦めません。友人のアクバスを巻き込んで旅費を調達しようとしますが・・・

子どもらしくない手段や話術で― 例えば、母がしまっておいたお布施のお札を盗む。チームのゴールポストを無断で売ってしまう。― など、盗みや詐欺まがいの行為をします。大人顔負けの交渉術です。
中でも、写真撮影の真似事で小銭を稼ぐ際、「仲良しなんだから肩を組んで」「怖い顔はやめて、楽しそうに笑って」「やあ、君は可愛いね」「まるまるとした可愛い赤ちゃんですね」とカメラマンになりきっての名演出ぶり。このシーンは、なんだか可笑しかったのですが…
観ている間中、悲しくて嫌な気分でした。試合を見に行くことしか眼中になく、自分の行為の善悪も結果もまるで考えていない様子です。少しも罪悪感を感じていないこの子の将来は一体どうなるのだろうと、ガッセムの行く末までが気になります。
ガッセムは、親に内緒で家を抜け出し、夜11時のバスでテヘランに向かいます。スタジアムに着いてからも予期しなかったことが次々に起こります。
バスの乗客もサッカーの観客も、大人が沢山いるのにちっともガッセムに気を止めません。
子どもらしい好奇心とガッサムの大胆さの相乗効果。彼の小旅行にはとんでもない「オチ」が待っていました。こうなっては、彼の将来の心配よりも「無事に帰宅できるのか?」そして、「彼にはどんなお仕置きが待っているのか?」私はそれが心配でなりませんでした。
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