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トラベラーのotomisanのレビュー・感想・評価

トラベラー(1974年製作の映画)
3.9
 悪事のほうが頭がよく回るのはなぜだろう?別にプロサッカーをこの目で見たいというのが悪なわけではない。それを今日明日で叶えようとすると、ついつい阿漕な金儲けに走らざるを得ないというのであって。
 イスラム教を奉じる人でいっぱいなイランだが、当時はまだ王国でアメリカとも仲良し。経済も好調だし綱紀も紊乱気味?世間が浮かれてると子どもまで強欲資本主義化だぞと厭味のひとつも言いたいか、監督。

 なんにせよ、天にも親にも唾を吐こうという悪童ガッセムはサッカー狂で学業そっちのけ、目下サッカー観戦テヘラン旅行計画に邁進中。国語の時間もつぶして経費計算に余念がない。これで算数に強くなれば将来はギャングの会計係で安泰だろう。ついでに、意志強固な面構えを盗みと故買、横領、写真屋詐欺で磨けば渡る世間に怖いものなしだ。こんなガッセムに呆れたか相棒が稼ぎの道半ばで愛想つかすのも尻目についに決行の夜。

 どんな世間の荒波が待っているのかと思いきや、やや難ありのバス飛び乗り、寝ずのテヘラン行きも無事、観戦チケットも4倍額で手に入れて、帰りの足代なんか知った事かの勢いで入場すれば、運命崖っぷちなのは後回し、とりあえずサッカー馬鹿大集合なスタジアムはガッセムの楽園のはずじゃないか。
 ところが試合はなんと3時間遅れ。そこで退屈しのぎにぶらりと辺りを徘徊すれば、こいつらの親はどんな稼ぎをしてるのか金持ち子弟のスイミング教室やら勤勉そうな職人たちがのらくら者ガッセムを気圧してくる。まわりまわってやって来た木陰ではみんな昼寝の真っ最中、そいつに誘われて一緒に寝ちまうと襲い掛かるのが夢魔。

 今日のこの時のために騙しまくった相手が総出で殴るわ蹴るわの騒ぎ。こいつは神様の罰なのか、ガッセムの良心の疼きなのか、飛び起きれば楽園は何処、無人スタジアムにはただ風が吹いているだけ。
 ガッセム人生何度目のピンチか知らないが、大都会行きの小さなストレスを幾つも潜り抜けた先で大悪夢が教えてくれたのが改悛へ向かう第一の難路なら、第二の広小路は魔都テヘランで悪の道への本格修行入りだろう。入門編なら経験済み、昼寝同様こっちのほうが性に合っていそうだが、第三の道がサッカーでプロ入りならへそが茶を沸かしそうだ。
 とりあえず駆け出す先にあてなんかあろうはずもないが、一枚上手だった運命の阿漕さを先ずは振り切りたいのが人情か。
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