デニロ

わが町のデニロのレビュー・感想・評価

わが町(1956年製作の映画)
3.0
1956年製作公開。原作織田作之助。脚色八住利雄。監督川島雄三。

フィリピンに思い入れ深い辰巳柳太郎の明治、大正、昭和一代記。若い頃、フィリピンでどの国の人々も成し遂げ得なかった道路敷設を、多くの犠牲者を出しながらも日本人が目途を付けたという高揚感をそのままにシャカリキになって生きているのだが、彼の妻の死、娘の死を節目として物語を紡いでいるのはなかなかに湿っぽい。

ここでいう「わが町」とは何処のことかとかんがえてみる。誇りに思う仕事を成就したいまや夢の世界フィリピンのことでもあろうし、また、現実に住む大阪ミナミの河童路地のことでもあるのかもしれない。昭和の時代に入り太平洋戦争の初期、大日本帝国がアメリカの植民地フィリピンを奪取、彼の地をもはやわが手にしたかのような高揚感を持つに至る。

辰巳柳太郎の道路建設と太平洋戦争を重ね合わせて、太平洋戦争終結後の日本をより詳しく描き出す。共に愚かさと頑迷さによって大きな犠牲を生み出している。戦争を生き永らえた辰巳柳太郎の塗炭の苦しみが日本人そのものであるとそんな風に読み取れる。それを孫娘南田洋子との遣り取りを通して語っている。

川島雄三作品にしては端正に作られている。とりわけ戦後の部分に強いメッセージを受け取らねばならない。

早稲田松竹クラシックスvol.189/川島雄三監督特集 にて
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