nt708

放浪記のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

放浪記(1962年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

花のいのちは短くて苦しきことのみ多かりき。

本作の最後の最後、この一文で鳥肌が立った。何と素晴らしい作品だろう。こういう詩的な作品を観ると自分は映像よりも何よりも言葉を信じる文学の虫なのだとつくづく感じる。映画を仕事としている人間としてはあるまじきことなのだろうが、やはり自分がエクスタシーを感じるのは無言も含めた言葉の力なのである。

しかし、その言葉の力を何倍にも何十倍にもして観客にぶつけてくる本作はまさに天才のなせる代物だ。いやらしさのない演出、演技している感じがしないのにしっかりと感情の伝わってくる役者たちの演技。どれをとっても文句のつけようがない。本当に良い映画だ。『浮雲』もそうだが、どうやら自分には成瀬監督の作品があっているようである。

「少しぐらいの貧乏や苦しみを味合わなければ良い小説は書けない」とか、「自分はこんなもんじゃないんだって叫びが自分の小説なんだ」とか、そうやって命を削って物を書いている人、作品を作っている人はやはりカッコいいいし、それぐらいしなければ時代を超えて愛される作品など作れっこないのだと改めて感じた。自分も少し身を引き締めなければ。
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