ひでぞう

放浪記のひでぞうのレビュー・感想・評価

放浪記(1962年製作の映画)
4.6
 素晴らしい、驚いた。高峰秀子の凄み。『二十四の瞳』とも、そして、傑作『浮雲』とも異なる、全く別の女性像を構築する。女優とはかくあるべし。八の字の眉毛、下から見上げるような卑屈な視線、だらしのない歩き方、そして、男に媚びるような、それでいて、捨て鉢な話しぶり。それらすべてを造形する。林芙美子という女性作家の誕生を見事に演じている。
 その一方で、優男(やさおとこ)たちの傲慢さ、甘え、いい加減さ、生活力のなさ、文人と呼ばれる人種のエゴイズムが切りとられている。
 従属している女性たちが、作家というかたちのなかで、自立していく様相がとてもリアルに描かれている。さすが、成瀬巳喜男である。さきに、ポール・ヴァーホーヴェン監督のいくつかの作品(『スペッターズ』『ショーガール』『ブラック・ブック』『エル ELLE』など)から、その「女尊男卑」の視線のなかで、潔い女性の姿が描かれていることを記した。そして、ここで、成瀬巳喜男が描こうとするのは、それらと、どこかつながっていながら、また、別の潔い女性の姿である。
 なぜ、魅力的な男性像が描かれないのか。わずかに、白坂五郎を演じた伊藤雄之助が良い味を出してい。それが救いになっている。
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