Ricola

あの胸にもういちどのRicolaのレビュー・感想・評価

あの胸にもういちど(1968年製作の映画)
3.4
ある夜、夫に嫌気のさした妻がバイクに乗って隣の国まで愛人に会いに行く、ただそれだけの話。
若妻のレベッカ(マリアンヌ・フェイスフル)の、見ているこっちが恥ずかしくなるほどの妄想がさらけ出された珍作である。


レベッカのボイスオーバーで心の内が語られる。
夫レイモンや結婚生活への不満、そしてダニエルへの愛を語る。
ほぼ彼女の主観でストーリーが進むため、どの点が妄想なのか否かが、特に作品前半ではわかりにくい。ただ、同じ道を通ったり同じ状況が反復されることで、彼女の違和感に我々も気づくことになる。

空を飛ぶ鳥の群れ、サーカスで注目を浴びること、砂漠…。
そんな彼女の妄想もサイケデリックなカラーに、ショット全体がいつの間にか変色していく。
バイクに乗って風のように駆け抜けるうちに、バイクの出すスピードによって道路沿いの木々などがまだらのような模様と化していく。
解放感と恋人に会う待ち遠しさのあまり、笑顔の彼女と周囲の風景がここでも人工的に色づけされていくのだ。

男たちから向けられる舐めるようないやらしい視線。
それはレベッカの妄想の中であることが多いようだ。例えばドイツとの国境での検問で、セクハラしてくる男を妄想しその妄想内でもレベッカはニヤニヤする。でも実際には特に何も起こらなかったため、彼女はつまらなそうにする。
酒場でひとりキルシュを飲んでいるときも、周りのおじさんたちが彼女をジロジロ見つめる様子がうかがえる。しかしひとりひとりおじさんが映る際には、他の人と談笑していいるところや彼らの後頭部が映るだけなのだ。


回想なのか妄想なのかもわからない。
レベッカと夫と愛人をめぐる過去に関する回想シーンもあるが、何が事実なのかよくわからない。

「反抗だけが生命を与えてくれる」
これがレベッカの妄想の本質なのかもしれない。
Ricola

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