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ワイルド・アニマルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ワイルド・アニマル(1997年製作の映画)
3.9
 男は車窓を眺めながら、針金を器用に曲げては、絞首刑のひもの輪っかを作り出し、発車の時刻を待っていた。死に囚われた男は、パリ行きの列車の中でうつろな表情を浮かべている。そこにコンパートメントに一人の若い女の子が彼と対面に座る。リチャード・リンクレイターの『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』のような幸福なロマンスの瞬間に見えるものの、列車がパリに着くと女は待ち構えていたフランス人と熱い抱擁を交わす。何かを期待していたホンサンは失意の中、コイン・ロッカー前でチョンへに声を掛けられる。彼の財布を盗もうと親しみ深い笑顔で声を掛けたその瞬間、それが2人の出会いだった。韓国から来た画家志望の詐欺師チョンへと北朝鮮軍の脱北者ホンサンは、遠くフランスの地で最底辺として暮らし始める。男たちにはそれぞれ心に秘めた人間がいるが、彼女たちは異国の男たちに縛られ、雁字搦めの中幽閉されている。

 レオス・カラックス『ポンヌフの恋人』をはっきりと意識しただろう物語は、パリで暮らす漂流者たちが哀れな夢想をする。まるでヌーヴェルヴァーグの映画のように、パリの街並みを颯爽と歩く2人には、せいぜいマフィアの汚れ仕事しか生きる術がない。屈強なホンサンとずる賢いチョンへとは最強のコンビのように見えるが、組織にとってはただの駒でしかないのだ。いかがわしい覗き部屋で乳首を見せる運び屋も、公共の場での白塗り全裸で不法滞在の糊口をしのぐハンガリー人も、パリの華やかな美しさの陰で幽閉された陰の存在でしかない。針の筵のような袋小路に置かれた4人の運命は、残念ながら破滅しかない。腹を貫く魚のイメージは、真っ先に北野武『ソナチネ』のモリに射抜かれた魚を思い出した。かりそめのブッチ・キャシディとサンダンス・キッドは、ギドクの初期の重要なモチーフとなる手錠に縛られながら、パリの街並みにひっそりと消え去る。底辺に暮らす男たちを待ち構える儚さが容赦ない。
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