半兵衛

レスリー・チャン 嵐の青春の半兵衛のレビュー・感想・評価

4.0
香港の街に生きる上流階級の若者と下町に住む若者、そんな別々の世界で暮らす四人が恋をして他愛のないでも愛おしい時間を過ごす様子をポップに切り取るパトリック・タム監督の演出が素晴らしくて確かに香港のゴダールというあだ名に相応しい作風だった。そんな彼らのやりとりをコミカルに、そして時にはアンニュイに描くところは確かに後進のアジアの映画監督たちに多大な影響を与えているのかも。

ことをしようとすると様々な人物が出入りしてしまいには麻雀まではじまり追い出されるカップル、そんな二人が香港特有の二階建てバスでのお客や運転手まで利用した大胆な絡み合い(バスの出方が…)、胡散臭い日本語の練習テープの復唱、たまたまラブホに入ったもう一方の男女二人が事情により出るに出れなくなりしかたなく会話→ベッドインのナチュラルな流れ、都会や海辺の様々な風景などのシチュエーションが散文詩のように紡がれ、とりとめないが瑞々しい時間となり心地よくなってくる。特に終盤のドラマはちょっとウォン・カーウァイみたいだったがやはり影響を受けていたのか。

でもそんなヌーヴェルヴァーグスタイルの青春ドラマに謎の日本人が現れてから波風が徐々に立ち不穏な気分になり、それがカンフーアクション映画のようなラストで爆発して「今までのドラマは何だったの?」と唖然としてしまう…確かに伏線はあったけれどそんなところにたどり着くとは予想もしなかった。

ヒロイン二人が香港映画では珍しく裸になるところも作品の清新な感覚を強くする、特にパット・ハーは現代でも通用するくらいの美人なのに商業施設で喧嘩を仲裁するためパンツ丸出しになったりするなどお色気場面も堂々とこなしていて圧巻。一方レスリー・チャンはデビューしたばかりのせいかその辺のお兄ちゃん感が凄いけれどそれが内気な青年という役柄によく合っている。

ちなみに香港映画の事情に詳しい関係者による副音声を聞くとこの映画の複雑な事情を知ることが出来て興味深かった、でも香港映画史に残る重要な作品なのに商業的にはヒットしなかったからとフィルムを乱雑に扱い(勝手に短縮したりシーンの順番を変更するのも含めて)ボロボロにしてしまうのはいくらなんでも酷すぎては。
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