三隅炎雄

昭和最大の顔役の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

昭和最大の顔役(1966年製作の映画)
4.0
建設会社を経営する企業舎弟の鶴田浩二が国際空港建設をめぐって伊藤雄之助率いる暴力組織と対決する。現代物といっても深作なんかのリアルなものではなく、筋自体は典型的な着流し任侠映画で、じゃあ現代で古風な話をただベタにやっているのかというとそういうのでもなく、ヤクザ物ギャング物と企業サラリーマン物が溶け合ったなかなか不思議な映画に仕上がっている。ジャンルの様式に対して距離があって、ヤクザ映画特有の前のめりの熱さは感じられない。鶴田浩二と伊藤雄之助の対決でポンと舞台みたいになったりするから、そこはかなり意識的に作っているのが分かる。大原麗子(ジュリエットの役どころ)やアイ・ジョージの死もリアリズムとは異なる不自然な表現で、一種の演劇的様式化と考えても良いかもしれない。途中の変に小ざっぱりと落ち着いた企業サラリーマン物っぽいタッチからは、表ヅラはきれいでも、高度経済成長日本の企業精神の中身なんざ、旧態然とした親分子分ヤクザ任侠と同じという皮肉を感じる。批評的やくざ映画ともいうべき、一風変わった面白い映画だ。歌謡映画風に流しのアイ・ジョージが『網走番外地』を歌うパートもいい(命じられた仕事の前だからこれも任侠映画のパロディ化と言っていい)。
三隅炎雄

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