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怒りのキューバのあのレビュー・感想・評価

怒りのキューバ(1964年製作の映画)
5.0
サトウキビをバチコーンバチコーン、からの大炎上🔥ということで、これには森山良子もざわわ...です。

プロパガンダと言っても、「戦艦ポチョムキン」や「カサブランカ」のような、主義が目的化したようなうるささは一切なく、真っ向から感情を描く大胆さが凄まじく、ある種完璧な映画に感じました。「銃を取れ!」というよりも、「持ちたくない銃を思わず持ってしまった」という感じがまさに「怒り」でした。今日劇場に来ていたおじさんたち世代の青年期のように、モラトリアム期間を埋めるために思想に飛びついたわけでは全くないんですよね。

右はもちろん、左も信用できず、結局本当に弱った人たちの眼差しこそが映画的に(もちろんその他全てにおいても)信用できるんだと改めて思わされました。

スタンダードサイズの小さな空間に、広角の世界が広がっていて、まるで劇場の奥行きと一体化し、熱気が画面を超えてこちらへ迫ってくるようでした。長回しで広い空間を説明する映画は、引きの画多めでシネスコにしがちですが、そこをあえてスタンダードで寄りもせめて行ったことが成功に繋がっていたように思います。

また、縦横無尽な長回しのカメラワークが注目されがちでしたが、静と動のリズムを上手く見極めたカット割も衝撃的に上手かったです。

スペインからアメリカへたらい回しにされたキューバのように、白人たちに弄ばれるベティのモンタージュ。
貧しさに喘ぐキューバの貧民を置き去りにする白人が真っ直ぐ遠ざかっていく道の長さ。
「カストロ生存」のビラをベランダから撒く青年、ベランダから落ちた青年のPOV、そして群衆に囲まれて地面に横たわる青年を弔うように降り注ぐビラのカタルシス。
街を静かに進む葬列を空中から静かに捉える眼差し。
平和の象徴を掲げて階段を冷静に降りてくるデモ隊に、容赦なく浴びせられた水の冷たさ。
妻子を前にして、なんとか冷静を保つ父を怒り狂わせるまで降り注ぐ爆薬の容赦なさ。
最後は、今まで出てきたすべての怒りを総決算するかのように、キューバの森の中を大行進する群衆たち。
これらの演出には本当に痺れました。

さらに、ナレーションはなんとなく説明的で陳腐になりがちですが、今作はキューバの大地に喋らせてしまっているので、むしろ自分の上で起こる惨劇を憐んでいるようにも見え、展開のないオムニバスのストーリーを、キューバという一つの感情を持った生き物にしてしまう、妙な一体感を出すことに成功していました。
あ