凛太郎は元柚彦

十二人の怒れる男の凛太郎は元柚彦のレビュー・感想・評価

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
4.5
すごい映画だった。密室劇の最高峰であり、バイアスの怖さとコミュニケーションの本質がすべて描かれてた。
人は見たいものしか見ない。
情報の脳内処理は、偏見や先入観に支配され、環境やタイミングによって簡単に左右される。そして都合の良い事実だけを無意識に拾って正当化してしまう。占いやオカルトの類なんかもそうだと思う。コミュニケーションの九割は伝え方や外部情報という学論だってあるぐらいだ。
観客はこの映画に没入し13人目の陪審員となって、客観的に真相を推理しようと努めるが、結局登場人物たちのキャラやセリフに翻弄され、最終的にはほとんどの観客が「少年は無実だった」と判断し、この映画の結末をハッピーエンドだと捉えるだろう。
しかし、立ち止まってひとつだけ考えてほしい。
この映画は、少年が本当に無実だったとは明かされずに終わる。
真相は存在せず、ただ12人の男たちの推論があっただけだ。それは果たして真実といえるのだろうか?
もしもだ。もしも、少年が殺人犯だったら…
存在しない結末。それこそがこの映画に隠されたもっとも大きな罠ではないだろうか。