『バルタザールどこへ行く』
Au Hasard Balthazar
(バルタザールが行き当たりばったり)
1966
フランス・スウェーデン
ロベール・ブレッソン監督は翌年『少女ムシェット』を撮る。『バルタザール』と『ムシェット』は姉妹作品と呼ばれてるらしい(IMDB)
『少女ムシェット』の主人公の少女はどんどん不幸になっていく。ロバのバルタザールも色んな酷い目に遭って最後は死ぬ。
ある登場人物がバルタザールを「聖なるものよ」と言う。
ブレッソンはドストエフスキーの『白痴』の主人公ムイシュキンが「私は動物の中でもロバがとりわけ好きなのです」と語る一節からこのストーリーを思いついたらしい。
ブレッソンほこの作品を「私の作った最も自由な映画、私自身を最も詰め込んだ映画」と呼んでいるらしい。
ブレッソンは1934年に初監督作品を撮った(出来が悪かったのでフィルムを捨てた)。第二次世界大戦に従軍したがナチス・ドイツの捕虜になる。収容所で出会った神父から映画製作を依頼されて素人俳優を使う撮影法を自分のスタイルにした。収容所でブレッソンは病気になり収容所から解放された。
ナチスの収容所から脱獄するフランス人捕虜を描いた小説を映像化した『抵抗』と言う映画で世界的な評価を得た。
『抵抗』(未見)は不屈の精神が逆境に打ち克つ物語の様だが『バルタザール』と『ムシェット』は貧困や悪人に、無垢な少女やロバが打ち負かされてしまう物語だ。
深読みし過ぎてるかもしれないけれど『抵抗』は「こうありたかった」物語で『バルタザール』と『ムシェット』は「でも現実はこうしかならない」という物語なのかも知れない。
ナチスに敗れ収容所に閉じ込められ病気になって放り出されてという経験が『バルタザール』と『ムシェット』の根底にある諦観の元になっているのかも知れないと思った。
追記
素人俳優達の顔がみんな個性的で味がある。
後にゴダールの妻になり作家や映画監督になったアンヌ・ヴィアゼムスキーは強い眼差しが印象的な美少女。顔が良くて性格が悪い不良少年(フランソワーズ・ラファルジュ)。そして不良少年達から馬鹿にされている無職の中年男アーノルド(ジャン=クロード・ベルナール)はゴヤが描きそうな印象的な顔で忘れられない。
滲み出てくる個性があれば演技力は要らないのか?とさえ思えてくる。